事業承継・引継ぎ補助金の仕組みと採択のコツを専門家が解説

中小企業の経営者の高齢化が進む中、"事業承継(後継者への引継ぎ)やM&A(外部への譲渡)"のニーズが急速に高まっています。
そんな中で注目されているのが「事業承継・引継ぎ補助金」。
この補助金は、経営のバトンタッチにかかる費用や新しい挑戦(事業再構築・業態転換など)を支援する国の制度です。
上手に活用すれば、承継時の資金負担を大幅に軽減し、次世代への成長投資を後押しできます。
この記事では、補助金の仕組みから採択されるためのポイントまでを専門家の視点で解説します。
この記事の監修
中小企業診断士 関野 靖也
大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は資金調達の支援実績300件以上、事業計画書の策定支援実績500件以上など中小企業支援に特化。中小企業にとってメリットの大きい経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用も支援。
中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
応用情報処理技術者、Linux Professional、ITIL Foundation etc
目次
第1章 事業承継・引継ぎ補助金とは?制度の概要と目的
「事業承継・引継ぎ補助金」は、中小企業が事業を次世代へスムーズに引き継ぎつつ、新たな成長に向けた取組を行う際に活用できる補助金です。
主な目的は以下の3つです。
後継者不足による廃業を防ぐ
事業承継後の成長・再構築を支援
地域経済の持続的な発展を促進
経営者の「引退支援」ではなく、“次の一手を打つための制度”として設計されています。
第2章 補助対象となる経費と事業類型の違い
この補助金には、申請内容に応じて3つの事業類型があります。
経営革新型
概要:承継後の新分野進出・業態転換など
補助上限額:最大600万円
補助率:2/3
専門家活用型
概要:M&A・デューデリジェンスなど専門家依頼
補助上限額:最大400万円
補助率:2/3
廃業・再チャレンジ型
概要:廃業支援+新規事業立ち上げ
補助上限額:最大300万円
補助率:2/3
主な補助対象経費
-
設備投資費(機械、厨房機器、内装工事など)
-
広告宣伝費(Webサイト、パンフレット、リブランディング)
-
専門家費用(税理士、M&A仲介、事業引継ぎ支援センター活用)
-
事務費・外注費(調査、設計、デザインなど)
第3章 申請の流れとスケジュール【2025年最新版】
1.事業構想の整理(1か月前〜)
承継の目的・時期・今後の事業計画を明確にします。
2.GビズIDの取得(申請前必須)
電子申請に必要なアカウントを早めに取得しておきます。
3.申請書・事業計画書の作成
補助金の目的と整合性のあるストーリー構成が鍵。
4.審査・採択発表(約1〜2か月)
採択結果は公式サイトで公開。
5.交付決定後、事業実施(最大10か月程度)
補助対象経費の支払い・報告を行い、精算手続きを経て入金されます。
ポイント:
採択されても、補助金は「後払い」方式です。
一時的に自己資金や融資で立て替える必要があるため、資金繰りの準備を忘れずに。
第4章 採択されるためのポイントと審査基準
審査では、**「承継の意義」「新たな成長性」「地域への波及効果」**の3点が重視されます。
採択されやすい計画の特徴
-
承継後に新しい価値を生み出す挑戦がある
-
承継の目的が明確(例:事業継続+雇用維持)
-
数値計画が具体的で、現実性がある
-
自社の強みと課題が整理されている
-
専門家と連携して事業を進める体制がある
審査で評価が下がるパターン
-
承継内容が曖昧、実施時期が不明確
-
収益モデルが弱く、補助金頼みの構成
-
計画書の記載が抽象的で説得力に欠ける
第5章 不採択になりやすいケースと対策
以下のようなケースは不採択につながりやすいです。
-
「承継=形式的」なだけの計画
→ 単なる名義変更ではなく、「事業をどう発展させるか」を明確に。 -
補助金の目的に合致していない
→ 設備更新や広告が「承継後の成長」に紐づいていないと評価されません。 -
他補助金との重複申請
→ 同一経費の重複申請は禁止。併用する場合は経費区分を分けましょう。 -
数字の裏付け不足
→ 予測売上や費用削減効果には根拠を添付(見積書・実績データなど)。
第6章 事業計画書に盛り込むべき3つの要素
-
承継のストーリー
誰から誰へ、なぜ引き継ぐのか。その背景と意義を明確に。 -
成長へのシナリオ
承継を機に、どんな新しい取り組みを行うのか。新商品・新サービス・DX化などの戦略を描く。 -
数値に基づく根拠
売上・利益・投資回収期間をシミュレーションし、現実的な再現性を示す。
💡 補助金申請の採択率は、計画書の完成度で大きく変わります。
自社だけで作成せず、専門家(認定支援機関・税理士)との連携がおすすめです。
第7章 まとめ|承継と成長を両立させるための実践ステップ
「事業承継・引継ぎ補助金」は、単なる資金支援ではなく、企業の未来を再設計するためのチャンスです。
-
承継の目的と新たな成長戦略を明確にする
-
経費とスケジュールを現実的に設定する
-
専門家の支援を活用して計画書の精度を高める
これらを押さえれば、採択率を大きく高めることができます。
経営のバトンをつなぐことは、企業の「終わり」ではなく「次のスタート」。
補助金を賢く活用し、新しい時代にふさわしい経営へとアップデートしていきましょう。

