税額控除を受けたい中小企業必見!経営力向上計画の申請メリットとは

中小企業が成長に向けて挑戦する際に必ず直面するのが「お金」の問題です。新しい設備を導入したい、業務効率を高めるためにシステムを入れたい、人材を育成したい。どれも会社を次のステージに押し上げるためには欠かせませんが、その一方で投資額は決して小さくなく、さらに税金の負担がのしかかってきます。利益が出れば出るほど法人税は増え、せっかくの成長資金が国庫に吸い上げられてしまう感覚を持つ経営者も多いはずです。

そんな悩みを解決する制度の一つが経営力向上計画と、それに紐づく税額控除です。承認を受けると、設備投資額の一定割合を法人税額から直接差し引けるため、キャッシュフローに余裕が生まれます。その資金を再投資や人件費に回せば、会社の成長サイクルを加速させることができるのです。

この記事では、経営力向上計画と税額控除の関係をわかりやすく解説し、制度の仕組み、実際の流れ、注意点までを専門的に整理します。「税金を減らしながら投資を進めたい」と考えている経営者の方は、必ず押さえておくべき内容です。

この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也

大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は資金調達の支援実績300件以上、事業計画書の策定支援実績500件以上など中小企業支援に特化。中小企業にとってメリットの大きい経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用も支援。

中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
応用情報処理技術者、Linux Professional、ITIL Foundation etc

目次

経営力向上計画とは、中小企業等経営強化法に基づき、国や都道府県が認定する「成長戦略計画書」です。内容は3〜5年を期間とし、売上高や労働生産性をどのように改善していくかを具体的な数値で示します。

 

例えば、以下のような目標設定が行われます。

  • 3年以内に労働生産性を年率1%以上改善する

  • 新規設備導入によって売上高を10%引き上げる

  • 業務のデジタル化によって労働時間を5%削減する

 

単なるビジョンではなく「数値で測れる改善計画」である点がポイントです。

 

そしてこの計画が承認されると、税制優遇(税額控除や即時償却)、金融支援、補助金の加点といった支援を受けられるようになります。つまり、経営力向上計画は「節税と投資を両立させるための入り口」と言えます。

 

特に税額控除は、利益が出ている中小企業にとって強力な武器になります。通常なら利益に応じて課税される法人税を、計画承認によって直接減額できるからです。これは資金繰りに直結するメリットであり、投資を前倒しで実行できる余裕を与えてくれます。

第2章 経営力向上計画で使える税額控除の仕組み

経営力向上計画の承認を受けた中小企業は、「中小企業経営強化税制」と呼ばれる優遇措置を活用できます。この中で代表的なのが 即時償却税額控除 です。どちらも設備投資にかかる税負担を軽減する制度ですが、仕組みやメリットには違いがあります。ここではその違いと実務上の判断ポイントを詳しく見ていきましょう。

即時償却の詳細

即時償却とは、対象設備の取得価額を、その年度の損金に一括で算入できる仕組みです。通常の減価償却では、法定耐用年数に応じて毎年少しずつ経費化していきます。たとえば1,200万円の機械(耐用年数12年)を購入した場合、通常は毎年100万円ずつの償却しかできません。

 

しかし即時償却を使えば、取得年度に1,200万円全額を損金計上できます。その結果、課税所得を大幅に圧縮でき、法人税額が減少します。

 

実例シミュレーション

  • 投資額:1,200万円

  • 当期課税所得:3,000万円

  • 法人税率:30%

 

通常償却なら当期の経費は100万円、課税所得は2,900万円となり、法人税額は870万円。即時償却を選ぶと課税所得は1,800万円に減少し、法人税額は540万円。差額330万円が初年度のキャッシュフロー改善額となります。

 

この効果は「利益が出ているが資金繰りに余裕がない」企業に特に有効です。

税額控除の詳細

一方の税額控除は、算出された法人税額から一定割合を直接控除できる仕組みです。

例えば、対象設備の取得価額の10%を法人税から差し引くことが認められる場合、投資額が2,000万円なら200万円の控除が可能です。

 

実例シミュレーション

  • 投資額:2,000万円

  • 法人税額(控除前):800万円

  • 税額控除率:10%

 

この場合、法人税額から200万円を差し引き、最終的な納税額は600万円となります。即時償却が「課税所得を減らす効果」なのに対し、税額控除は「法人税額を直接減らす効果」があるため、黒字企業にとってはよりメリットが大きいケースが多いのです。

どちらを選択すべきか?

即時償却と税額控除は併用できず、どちらかを選択する必要があります。選択のポイントは「利益水準」と「今後の投資計画」にあります。

 

  • 利益が少ない企業:課税所得を減らす効果が即効性のある即時償却を選ぶ方が有利。赤字に近い状況では、税額控除をしても控除できる法人税額自体が少ないため、メリットが限定的です。

 

  • 安定して黒字を出している企業:法人税額そのものが大きいため、税額控除の方が効果的。利益が多いほど控除額も増えるため、投資額に比例した恩恵を得られます。

 

また、企業の資金繰り状況や今後の投資予定を考慮し、複数年にわたる効果を試算して判断することが望まれます。

適用対象となる設備の要件

税額控除や即時償却の対象となるのは、すべての設備投資ではありません。要件を満たす「生産性向上設備」に限定されます。

 

具体的には以下のような分類があります。

  1. 機械装置

    • 旧モデルと比較して年平均1%以上の生産性向上が見込まれるもの

    • 工業会等の証明書が必要

  2. 測定工具・検査機器

    • 精度や効率が一定基準以上改善されることが条件

  3. ソフトウェア

    • 自動制御化、業務効率化、データ解析機能を有するものなど

  4. 器具備品(一部対象)

    • 労働生産性向上に直接寄与するもので、基準を満たすもの

 

重要ポイント

  • 中古資産は対象外

  • リース資産は原則対象外(ただしファイナンスリースは一定条件で可)

  • 自社開発設備でも要件を満たせば対象になる

 

これらの基準を満たしているかどうかは、工業会証明や所管省庁の確認で判断されます。

 

なぜ国がこのような優遇措置を設けているのか。それは、中小企業の生産性向上こそが日本経済全体の底上げにつながると考えられているからです。中小企業は雇用の7割以上を担っており、その生産性が高まれば賃上げや新規投資が促進され、地域経済にも波及効果が広がります。

 

そのため、経営力向上計画に基づく税額控除は単なる「節税策」ではなく、国が中小企業に成長のための投資を後押しする仕組みだと言えます。

第3章 税額控除を活用するメリットと注意点

経営力向上計画の承認を受けて税額控除を適用する最大の魅力は、法人税の負担を直接的に軽減できる点です。資金繰りに直結するため、企業の成長投資を加速させる効果があります。ただし、制度を正しく理解していないと期待していた控除が受けられないリスクもあるため、メリットと注意点の双方を押さえておくことが重要です。

税額控除を活用するメリット

キャッシュフローが即時に改善する

税額控除は「課税所得を減らす」のではなく、「法人税額から直接差し引く」ため、控除の効果がストレートに現れます。例えば法人税額が800万円、控除額が200万円であれば、納付額は600万円に減少します。結果として手元資金が増え、その分を再投資や運転資金に回すことができます。

 

投資判断のハードルが下がる

通常であれば「税金を払った後に残った資金」で投資を行う必要がありますが、税額控除を活用すれば投資額の一部が税負担軽減という形で戻ってきます。これにより「投資後の資金繰りが不安」という理由で見送っていた設備導入やDX投資に踏み切りやすくなります。

 

競争力強化と信用力の向上

承認を受けた企業は、金融機関や取引先に対して「国から経営改善計画を認められている会社」として評価されます。税制優遇を享受するだけでなく、「成長志向の企業」というブランド力も手に入るのです。これが新規取引の開拓や金融機関からの融資条件改善に結びつくケースも少なくありません。

 

税負担の平準化が可能

大規模な投資を行うと、その年度だけ法人税額が跳ね上がりやすくなります。税額控除を利用すれば、納税額を抑えてキャッシュフローを安定させることができます。複数年にわたって継続的に投資を計画する企業にとっては、資金繰りの安定化につながります。

税額控除の利用における注意点

即時償却との選択が必要

税額控除と即時償却は併用できません。どちらを選ぶかは、利益水準と将来の投資計画を踏まえて判断する必要があります。利益が少ない企業では控除する法人税額自体が小さく、メリットが薄れるため即時償却を選んだ方が有利です。一方、黒字が安定している企業では税額控除の方が効果を発揮します。

 

対象設備が限定されている

制度の対象となるのは「生産性向上に資する設備」のみであり、すべての投資が認められるわけではありません。特に注意すべきは以下の点です。

 

  • 中古資産は対象外

  • リース資産は原則対象外(ただしファイナンスリースは条件付きで可)

  • 工業会証明や確認書が取得できる設備であること

 

「対象設備ではなかった」と後から判明すると、税額控除が適用できず、想定外の納税が発生する可能性があります。

 

承認前の投資は対象外

経営力向上計画の承認を得る前に設備を購入した場合、その投資は税額控除の対象外になります。実務では「設備導入のスケジュール」と「計画承認の時期」を慎重に調整する必要があります。焦って発注すると大きな損失につながるため注意が必要です。

 

控除額の上限に注意

税額控除には、法人税額の20%という上限が設けられています。たとえば法人税額が500万円の場合、控除できるのは最大100万円までです。投資額が大きくても、法人税額が小さいと控除を使い切れないことがあります。複数年に分けた投資計画を立て、上限を考慮しながら制度を活用することが重要です。

 

申告手続きの煩雑さ

税額控除を適用するためには、計画の承認通知書や工業会証明書、設備取得契約書など複数の書類を税務申告書に添付しなければなりません。不備があれば控除が認められず、修正申告が必要になる場合もあります。専門家と連携して万全の体制で臨むことが不可欠です。

第4章 経営力向上計画と他制度との違い・併用の可否

経営力向上計画に基づく税額控除は、中小企業が利用できる数ある税制優遇の中でも代表的なものの一つです。ただし、これ以外にも「中小企業投資促進税制」「地域未来投資促進法」「中小企業経営強化税制(他類型)」など、似たような制度が複数存在しています。これらは仕組みや適用条件が異なり、併用できるかどうかという点でも注意が必要です。ここでは、主要な制度との違いと実務上の判断ポイントを整理します。

中小企業投資促進税制との違い

「中小企業投資促進税制」は、比較的シンプルな仕組みで広く知られています。青色申告を行っている中小企業者であれば、一定の設備投資に対して30%特別償却または7%税額控除が認められる制度です。

 

これに対して「経営力向上計画に基づく税額控除」は、承認を前提とするためハードルは高いものの、控除率が最大10%とより有利なケースが多いのが特徴です。また、単なる投資促進策ではなく「成長戦略に基づく設備投資」というストーリーが前提にあるため、承認を得ること自体が企業の信頼性向上につながるという副次効果も期待できます。

 

つまり「汎用的に使えるのが投資促進税制」「承認を条件に強力な効果を得られるのが経営力向上計画」と整理できます。

地域未来投資促進法との違い

「地域未来投資促進法」に基づく税制優遇は、地域経済への波及効果が大きいと認められる事業が対象となります。自治体と国が共同で作成する基本計画に沿って事業計画を立てる必要があり、地域性や波及効果が審査ポイントとなるため、対象範囲はやや限定的です。

 

一方、経営力向上計画は「企業自身の生産性向上」が軸です。地域貢献というよりも、自社の競争力を高めることに重点が置かれており、より多くの中小企業に門戸が開かれているといえます。

経営強化税制(類型B・C・Dなど)との関係

経営力向上計画に基づく税制は、経営強化税制のA類型(生産性向上設備等)に位置付けられます。これに加えて、以下のような類型も存在します。

 

  • B類型(収益力強化設備):投資によるROI(投資利益率)が一定以上見込まれる場合

  • C類型(デジタル化設備):遠隔操作、可視化、自動制御などDX要件を満たす場合

  • D類型(経営資源集約化設備):事業承継やM&Aに伴い資源を集約する場合

 

いずれも対象要件が異なるため、自社の投資内容に最も適した類型を選ぶ必要があります。ただし一つの設備に対して複数類型を同時に適用することはできず、どの制度を利用するかの選択が求められる点に注意が必要です。

併用の可否と実務上の留意点

複数の制度が存在すると「併用すればより大きな節税効果が得られるのでは」と考えがちですが、実際には同一設備投資に対して二重に適用することは認められていません。



たとえば、ある機械に経営力向上計画の税額控除を適用した場合、同じ機械に投資促進税制を同時に使うことはできません。

 

ただし、設備ごとに制度を使い分けることは可能です。例えば、主要生産ラインの機械には経営力向上計画を活用し、補助的な設備には投資促進税制を使う、といった形です。この場合でも、対象要件を正しく満たしているかを確認する必要があります。

 

また、補助金との併用も注意点があります。補助金によって取得した設備は、圧縮記帳後の金額が税制対象となるため、投資額の全額が税額控除の対象になるわけではありません。補助金と税制優遇を同時に活用する場合は、会計処理を正しく行わないと、のちに税務調査で否認されるリスクがあります。

専門家に相談すべき理由

こうした制度間の違いや併用ルールは非常に複雑で、年度ごとの税制改正によっても条件が変わります。実務では「どの制度を使えば最も効果的か」を判断するのが難しいケースが多く、誤った選択によって期待していた控除を受けられなかった例も少なくありません。

 

そのため、税理士や中小企業診断士など制度に精通した専門家と連携することが不可欠です。設備導入の計画段階から相談すれば、制度選択を誤るリスクを回避でき、結果的に節税効果を最大限に享受することができます。

制度を比較し、自社に最適な選択を

経営力向上計画による税額控除は、中小企業にとって強力な節税手段であり、同時に国から「成長計画を承認された企業」という信用も得られる制度です。ただし、類似する他制度との違いや、併用できる範囲を理解しておかなければ、本来受けられるはずの恩恵を逃す可能性もあります。

 

大切なのは、「どの制度を選べば自社にとって最も有利か」を戦略的に判断すること。

そのためには、会計・税務・経営の観点から総合的に比較検討できる専門家の存在が欠かせません。

 

承認と税制優遇を正しく組み合わせて活用できれば、節税効果にとどまらず、中長期の投資戦略を支える強力なツールとなるのです。

税額控除を確実に適用し、投資を加速させたい方へ

経営力向上計画と税額控除は、中小企業にとって「節税」と「成長投資」を同時に実現できる大きなチャンスです。しかし、承認のタイミングや設備の要件など、専門的な知識が求められるため、自力で進めると大きなリスクを抱えることになります。

私たちは、これまで経営力向上計画をサポートしてきた実績をもとに、計画書の策定から申請、承認後の税額控除の適用まで一貫して伴走いたします。

節税効果を最大化し、未来への投資を加速させたいとお考えの経営者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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