経営力向上計画の申請メリットとは?中小企業が今すぐ活用すべき理由

「経営力向上計画」という制度を聞いたことがあっても、実際にどんなメリットがあるのか詳しく理解している中小企業経営者は、まだ多くありません。

中小企業庁が認定するこの制度は、単に“計画書を出すだけ”ではなく、税制優遇や金融支援、補助金申請時の加点など、会社の成長を後押しする実践的な効果を持っています。

本記事では、経営力向上計画の仕組みや申請によって得られる具体的なメリットを、分かりやすく掘り下げます。さらに「どんな企業に向いているのか」「申請を成功させるコツ」までを整理し、最終的に読んだ方が“自社にとって申請すべきかどうか”が判断できる内容にしています。

この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也

大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。

中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
応用情報処理技術者、Linux Professional、ITIL Foundation etc 

目次

1. 経営力向上計画とは何か?

経営力向上計画とは、「中小企業等経営強化法」に基づき、中小企業庁や所管省庁の認定を受ける経営改善のための公的な計画書です。

 

自主的に立てる社内向けの経営計画と異なり、国が正式に認める制度であることから、認定を受けた瞬間にさまざまな支援措置が使えるようになる点が大きな違いです。

計画に盛り込む内容

計画の内容には、まず自社の現状を客観的に整理することが求められます。たとえば生産効率が低い、人材が不足して残業が増えている、デジタル化が遅れているといった課題を明確にすると同時に、熟練した技術や地域ブランド力など自社の強みも書き出します。そのうえで、今後どのように改善していくのかを具体的な取り組みとして示します。

 

新しい設備の導入、デジタルツールの活用、事業承継に備えた体制整備、社員教育や働き方改革の仕組みづくりなどが典型的な例です。さらに、これらの施策がどのように成果につながるのかを、売上や営業利益率、労働生産性といった数値目標に落とし込むことが必要です。

ただの“宣言”ではない仕組み

重要なのは、この計画が単なる宣言や自主的な目標設定ではなく、各業種ごとに定められた「事業分野別指針」に沿って策定される点です。指針に従って作成した計画を申請し、国から認定を受けることで初めて効力を持ちます。

 

認定を受けると、税制優遇、金融支援、補助金申請時の加点など多方面にわたる特典を利用できます。つまり経営力向上計画は「計画の実行そのものが国の支援につながる」制度です。

認定を受ける効果

例えば新しい機械を導入する際には、即時償却や税額控除によって資金繰りが改善します。事業承継に伴う不動産取得では税の軽減措置が働き、融資や信用保証の面でも特例が認められるため、資金調達を有利に進めることができます。

 

このように経営力向上計画は、企業の経営戦略を整理しながら、その実行を国が後押しする仕組みです。認定を受けることで、自社の成長を加速させるための実効性ある手段を手にすることができます。

2. 申請で得られる主なメリット

経営力向上計画の最大の魅力は、認定を受けることで「すぐに使える支援措置」を幅広く享受できることです。税金の優遇から金融支援、法的手続きの簡略化まで、経営に直結するメリットがそろっています。

税制上のメリット

まず大きいのは、設備投資を行う際の税制優遇です。

 

  • 即時償却:購入した設備をその年に全額経費として処理できる

  • 税額控除:取得価額の最大10%を法人税額から直接差し引ける

 

例えば、1,000万円の機械を購入した場合、即時償却ならその年の課税所得を一気に圧縮できます。税額控除を選択した場合でも、最大100万円の税金が直接減額されるため、資金繰りに大きな余裕が生まれます。

 

さらに、給与を増加させた企業には控除率が上乗せされる仕組みがあり、人材への投資と税制優遇を両立させることも可能です。

事業承継での税負担軽減

後継者問題を抱える中小企業にとってもメリットがあります。



経営力向上計画の認定を受けたうえで事業承継を行う場合、不動産取得税が軽減されます。

 

例えば、事業譲渡に伴い土地や建物を取得する場合、通常3〜4%かかる不動産取得税が軽減されるため、承継コストを大幅に抑えることができます。これはM&Aによる事業承継にも有効で、資産の引き継ぎがスムーズになります。

金融支援のメリット

資金調達の面でも優遇措置があります。

 

  • 日本政策金融公庫からの低利融資

  • 信用保証協会の保証枠の拡大(通常枠とは別枠)

  • 中小企業基盤整備機構や食品流通合理化機構による債務保証

 

これにより、新規投資や事業再編のための資金調達が通常より有利な条件で実現できます。銀行からの融資交渉においても「国の認定を受けている計画である」という信用力がプラスに働きます。

法的支援による手続きの簡略化

認定を受けると、許認可や事業承継に関する法的手続きが簡略化されます。



たとえば、建設業や旅館業の許認可を承継する際に、本来なら煩雑な再取得が必要ですが、経営力向上計画に基づけばそのまま引き継ぐことができます。

 

また、通常4人以上必要な協同組合の設立も、3人で可能になります。さらに、事業譲渡においては債権者の同意を個別に取らなくても、通知後1か月間異議がなければ承認されたとみなす「免責的債務引受けの特例」が利用できます。

補助金・助成金申請での加点

経営力向上計画の認定を持っていると、ものづくり補助金やIT導入補助金などの申請で「加点対象」となります。これにより採択率が上がり、他社よりも有利に補助金を獲得できる可能性が高まります。

3. どんな企業が対象になるのか?

経営力向上計画は、一部の大企業ではなく、主に中小企業や個人事業主を対象とした制度です。自分の会社が対象になるのかどうかを確認しておくことは、申請の第一歩となります。

中小企業の定義

この制度でいう「中小企業者」とは、資本金や従業員数で区分されます。業種ごとに基準が異なりますが、おおむね以下の範囲であれば対象になります。

 

  • 製造業・建設業・運輸業:資本金3億円以下、または従業員300人以下

  • 卸売業:資本金1億円以下、または従業員100人以下

  • 小売業・サービス業:資本金5,000万円以下、または従業員50人以下

  • ソフトウェア業・情報処理サービス業・旅館業など:資本金3億円以下、または従業員300人以下

 

これらの基準を超えると大企業とみなされ、原則として対象外になります。

適用されないケース

一方で、資本金は小さくても実質的に大企業の支配下にある場合は対象外とされます。

具体的には以下のようなケースです。

 

  • 大企業が議決権の過半数を持っている

  • 複数の大企業から2/3以上の出資を受けている

  • 過去3年間の平均所得金額が15億円を超えている

 

こうした場合には、中小企業等経営強化法上の「特定事業者」には該当せず、支援措置を利用できません。

対象となる業種

製造業、建設業、運輸業、卸売・小売業、情報通信業、宿泊業、飲食業、教育・学習支援業、医療・福祉業など、非常に幅広い業種が対象です。



ただし、風俗関連事業や一部の娯楽業などは除外されています。

4. 実際の申請手続きの流れ

経営力向上計画は、思いついたらすぐに申請できるものではなく、一定の手順を踏む必要があります。流れを理解しておくことで、スムーズに準備が進められます。

ステップ1:自社の現状分析

まずは自社の経営状況を客観的に把握します。



売上や利益率、生産性、人材の状況、デジタル化の進み具合などを数値で整理し、どこに課題があるかを明確にすることが出発点です。この段階で会計事務所や認定支援機関に相談する企業も多くあります。

ステップ2:改善方針と目標設定

現状分析をもとに、今後3〜5年でどのように経営力を高めていくかを方針としてまとめます。



たとえば「新しい設備を導入して生産性を年1%以上向上させる」「営業利益率を2%改善する」「社員教育を強化して労働生産性を高める」といった具体的な数値目標を設定します。

ステップ3:具体的な取組内容を計画書に落とし込む

次に、その方針を実現するための手段を記載します。



設備投資、デジタルツールの導入、新商品開発、事業承継の準備、働き方改革の実行など、実際のアクションを具体的に書き込みます。ここで重要なのは「数値的な根拠」と「業種ごとの事業分野別指針に沿った内容」にすることです。

ステップ4:申請書の作成と提出

経営力向上計画の申請書は、所管省庁ごとに定められた様式に従って作成します。



申請方法は電子申請(keieiryoku.go.jp)または紙申請があり、提出先は自社の事業分野を所管する経済産業局や農林水産省などです。電子申請の場合、通常14日程度で処理されることが多いとされています。

ステップ5:認定の取得

審査を経て、問題がなければ認定書が交付されます。



標準的な処理期間は1か月前後ですが、複数省庁にまたがる場合や内容に修正が必要な場合は45日程度かかることもあります。認定を受けて初めて税制優遇や金融支援を利用できるようになります。

ステップ6:実行とフォローアップ

認定後は、計画に沿って投資や改善を実行します。その際、必要に応じて実施状況の報告が求められる場合があります。

 

例えば、B類型の収益力強化設備を導入した場合は、投資計画の進捗について報告書を提出する必要があります。

まとめ・活用のすすめ

経営力向上計画は、単なる書類作成ではなく「国が公式に認定する経営改善プラン」です。認定を受けることで税制優遇・金融支援・補助金加点・法的手続きの簡略化など、多岐にわたるメリットが得られます。

 

成長戦略を国が後押ししてくれる制度

新しい設備の導入やDX、人材育成、事業承継など、中小企業が直面する課題は多岐にわたります。経営力向上計画を作成する過程で、自社の課題を整理し、成長に向けた具体的なアクションを明文化できます。そして、その取り組みを国が制度として後押ししてくれるのがこの仕組みの大きな強みです。

 

信用力の向上と資金調達の円滑化

認定を受けた企業は「経営改善に積極的な事業者」として社会的な評価が高まります。これにより、金融機関との取引や新規顧客との商談でも信頼を得やすくなります。結果として資金調達がスムーズになり、経営の選択肢も広がります。

 

メリットを理解していても、実際に行動に移さなければ何も変わりません。書類の作成や手続きはやや複雑に感じられるかもしれませんが、認定支援機関や専門家のサポートを活用すればスムーズに進められます。

 

「まだうちには早い」と思っている企業こそ、この機会に計画を立ててみることで、将来の成長戦略が一気に明確になります。

お問い合わせ・ご相談はこちらから

経営力向上計画は、国の認定を受けることで税制優遇や金融支援、補助金申請での加点といった大きなメリットを得られる制度です。しかし、計画の策定や申請手続きには一定の専門性が求められ、自己流で進めると差し戻しや認定の遅れにつながるケースも少なくありません。

私たちは、これまで多くの中小企業の経営力向上計画を支援してきました。制度の要点を押さえた申請書の作成から、認定取得後のフォローまで、一貫してサポートいたします。

まずは自社が対象となるか、そしてどのような支援措置を活用できるのかを確認することが第一歩です。

確実な申請と最大限のメリット享受に向けて、ぜひ一度ご相談ください。

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