現在1次産業を営んでおり、今後2次・3次産業に取り組む場合の補助対象経費は認められるのか?

農業、林業、水産業といった一次産業は、日本経済の基盤を支える存在であると同時に、人口減少や高齢化、価格競争、自然災害リスクといった多くの課題を抱えています。こうした環境下において、従来の生産販売のみに依存する経営では安定した収益確保が難しくなっており、一次産業従事者が二次産業や三次産業に取り組む、いわゆる「六次産業化」が注目されるようになりました。生産から加工、さらに流通や販売、サービスまでを一体的に展開することで、収益の多角化と付加価値の最大化を図ることができるのです。
その一方で、補助金を活用しようとする際に必ず直面するのが、「補助対象経費に該当するかどうか」という制度上の線引きです。特に小規模事業者持続化補助金においては、申請者が「商工業者」であることが求められており、一次産業従事者がそのままでは要件を満たさない場合があります。本記事では、一次産業者が二次・三次産業に取り組む場合に補助対象経費として認められる条件、認められない条件を詳細に解説し、さらに実務上の注意点や具体的な事例を交えながら、申請を検討している方にとって実用的な指針を提供します。
この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也
大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。
中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
応用情報処理技術者、Linux Professional、ITIL Foundation etc
目次
1. 一次・二次・三次産業の役割と六次産業化の意味
日本経済の基盤を成す一次産業(農業・林業・水産業)は、近年、担い手不足や収益性の低下に直面しています。従来の「生産して市場に卸す」だけのビジネスモデルでは安定的な利益確保が難しく、事業の持続性が危ぶまれる場面も少なくありません。
こうした背景から注目されているのが「六次産業化」です。六次産業化とは、一次産業に従事する事業者が、加工(二次産業)や販売・サービス提供(三次産業)まで自ら手掛け、事業全体を一気通貫で展開する取り組みを指します。
例えば農家が収穫したトマトを使い、自家製ソースを製造し、さらに自社ECサイトで販売すれば、原材料としてのトマト販売に比べ、はるかに高い付加価値を生み出せます。これは単に利益率を高めるだけでなく、ブランド力の強化や消費者との直接的なつながりの確立にもつながります。六次産業化は「守りの経営」から「攻めの経営」へとシフトするための重要な戦略なのです。
2. 小規模事業者持続化補助金における一次産業者の扱い
小規模事業者持続化補助金は、中小企業や小規模事業者が販路開拓や経営改善に取り組む際に活用できる代表的な補助制度です。ただし、その対象は「商工業者」に限られています。
農業者や漁業者、林業従事者はそのままでは商工業者に含まれません。そのため一次産業だけを行っている場合には、申請要件を満たさないことになります。
しかし、条件次第で補助金を活用できる可能性は十分にあります。一次産業の事業者であっても、自ら加工食品を製造したり、観光サービスを提供したり、直販ルートを構築したりしている場合には、商工業者と同等の事業活動とみなされます。
例えば、農家がブルーベリーを収穫してジャムを製造・販売する、漁業者が漁獲物を冷凍食品に加工して直販する、といったケースです。このように「単なる資源供給者」ではなく「商品やサービスを消費者に提供する事業者」としての姿勢を明確に示せば、補助金申請の土台に立つことができます。
3. 補助対象となるケースと対象外となるケース
補助金が認める経費は「販路開拓や経営力向上に直結するもの」に限られます。ここを誤解すると申請が不採択になるリスクが高まります。
対象となるケースの例
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ECサイトや直販用のホームページ構築費用
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商品パッケージデザインやブランドロゴ作成費用
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展示会や商談会への出展費用
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販売促進のための広告宣伝費
これらは「市場開拓」に直結するため、補助対象として認められやすい領域です。
一方で、対象外となるケースもあります。
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農業用トラクターや漁船、林業用チェーンソーなど、生産工程に必要な機械
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自宅の台所を使った加工や、家族労働による製造など、事業用として明確に区分できない活動
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単なる農協や漁協への出荷(系統出荷)に依存しているだけのケース
特に系統出荷は、事業者自身による販路開拓ではないため、補助金の趣旨に合致せず対象外とされます。
4. 実務上の注意点と申請に必要な準備
補助金申請で重要なのは「自社が商工業者としての取り組みを行っていること」を客観的に証明することです。そのため、以下の準備が不可欠です。
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事業計画書の作成:加工・販売の具体的な取り組み内容、市場分析、収益予測を記載。
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証拠資料の提出:直売所での販売実績、試作品の写真、ECサイトの運営記録など。
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経費の明確化:販路拡大につながる支出を明示し、生産用設備との線引きを明確にする。
また、母屋の一角を事業利用している場合は「事業用区画」として明確に分離されているかどうかを確認しなければなりません。曖昧な場合は家庭内利用と見なされる恐れがあります。
5. 他制度との比較と補助金活用の戦略
持続化補助金だけでなく、一次産業者が二次・三次産業に進出する際には他の補助制度を活用できる場合もあります。
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ものづくり補助金:新しい製品や技術を開発する際に有効。食品加工機械や新製法の導入に適している。
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事業再構築補助金:業態転換や新分野展開に強みがあり、六次産業化の初期投資を後押しする。
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自治体独自の補助制度:地域資源を活用した商品開発や観光振興と連動するものが多い。
つまり、一次産業者が六次産業化を進める際には「持続化補助金=販路拡大」「ものづくり補助金=製品開発」「事業再構築補助金=新分野進出」といったように、それぞれの制度を適材適所で組み合わせる戦略が有効です。
まとめ
一次産業の事業者が補助金を活用する際の最大のポイントは、自ら加工・販売に取り組んでいるかどうかです。系統出荷に依存しているだけでは対象外ですが、商品開発や販路開拓を主体的に行えば補助対象となり得ます。
補助金を活用して六次産業化に取り組むことは、単に収益性を高めるだけでなく、地域経済の活性化や雇用創出にもつながります。制度ごとの要件を理解し、適切に事業計画を立てることで、一次産業者は大きな飛躍のチャンスを得られるでしょう。

六次産業化に挑戦するなら、今こそ補助金を活用しましょう
一次産業の枠を超えて、加工や販売に取り組むことは事業の安定化と成長の大きなチャンスです。しかし補助金の要件を誤解して申請してしまうと、不採択や経費不認定のリスクがあります。
当社では中小企業診断士による専門的なサポートを通じ、事業計画の策定から申請書作成、経費の妥当性確認までを一貫して支援しています。自社の取り組みが補助対象に当たるのか判断に迷う方は、ぜひお気軽にご相談ください。