小規模事業者持続化補助金における収益納付の仕組みと注意点

小規模事業者持続化補助金を活用する際、意外と見落とされがちなのが「収益納付」という制度です。補助金を活用して事業を進めた結果、収益(収入から経費を差し引いた利益)が発生した場合、その一部または全部を国庫に返納する必要がある場合があります。
これは「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」等に基づく仕組みであり、事業者にとっては補助金の交付額が減額されたり、交付後に返納を求められたりする可能性があります。制度を正しく理解しないと、「なぜ補助金が満額もらえなかったのか」「後から返納を求められてしまった」といったトラブルにつながりかねません。
この記事では、収益納付の基本的な考え方から、具体的な発生ケース、申請時に必要な対応、誤解しやすいポイント、そして実務上の注意点まで、徹底的に解説します。
この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也
大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。
中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
応用情報処理技術者、Linux Professional、ITIL Foundation etc
目次
1. そもそも収益納付とは何か――制度の狙いと誤解されやすいポイント
「収益納付」は、補助事業の結果として直接の利益が生じた場合に、その利益分(または一部)を補助金額から差し引いたり、返納したりする仕組みです。背景には、公的資金を“短期の利益補填”に用いるのではなく、販路開拓・生産性向上といった公共性ある目的に使う、という原則があります。
小規模事業者持続化補助金では、事業完了までに発生した直接収益は、「交付すべき補助金から減額」する取扱いが基本です。つまり、後日突然返金を求められるのではなく、交付時点で控除されるイメージが標準的です。
よくある誤解は次の二つです。
・広告や内装で売上が伸びた=すべて収益納付の対象だと思い込む。
・ECサイトを刷新しただけで収益納付と判断する。
正しくは、「直接」の定義と因果関係の強さを見極めることが要です(次章で判定フレームを提示します)。
2. 「補助金により直接生じた収益」を見極める視点(判定フレーム)
収益納付の鍵は**“直接性”**です。以下の4観点で評価すると、現場判断がぶれにくくなります。
2-1. 起点の一致
利益の起点が補助対象の取組そのものか。
例:補助で導入した機械で製造→販売した利益=一致/直接性が高い。
2-2. プロセスの連続性
補助対象の工程から販売・受領までが一連の流れで分断されていないか。
展示会出展(補助対象)→その場で販売→収入受領=連続性が高い。
2-3. 代替不可能性
補助がなければその収益は現実的に発生し得なかったか。
決済機能の新設がなければネット販売できなかった、等。
2-4. 証憑の明瞭性
「補助により直接生じた」と説明できる請求・領収・受注ログが揃うか。
会計仕訳や販売レポートで明確に紐づくこと。
この4観点がすべて強く肯定方向に寄ると、「直接収益」と判断されやすくなります。
3. 典型パターン別の該当・非該当:境界事例で理解を深める
3-1. 該当しやすい代表例
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設備導入→製品・サービス販売
製造機械、焙煎機、3Dプリンタ等で作った製品の販売利益。
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EC機能の構築→オンライン売上
カート/決済/在庫連携を新設し、その機能を用いた受注利益。
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展示販売会への出展→当日の販売
出展費が補助対象、当日売上の粗利益が直接収益。
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新商品開発→リリース直後の売上
開発費が補助対象、販売で得た利益は直接性が高い。
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有料イベント(PRセミナー)→参加費収入
会場借上・運営等が補助対象、徴収費は直接収益。
3-2. 原則は対象外(間接効果)になりやすい例
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広告・チラシ・SNS運用
販促は売上に寄与するが、即時の“直接対価”ではない。
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一般的なサイト改修・ブランディング
コンテンツ整理やデザイン刷新のみでは、直接の収益とは言えない。
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店舗改装(ショーケース入替・照明改善等)
環境改善による波及効果はあるが、対価授受が直結しない。
3-3. グレーゾーンの考え方
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ECのUX改善のみ(決済機能は既存)
単なるUI改善は“直接”と言い切れない場合が多い。
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展示会での名刺獲得→後日受注
受注の起点が展示会であることの証明力次第(受注記録への紐づけ、展示会限定オファーの活用等)で判断が変わり得る。
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部分的な自動化→受注増
「自動化がなければ受けられなかった注文」という説明の組み立てとログの整備が鍵。
4. 実務で使える収益納付の計算ステップとミニ演習
収益納付は「収入-経費」で算出される利益相当額がベースです。現場で迷わないためのフローを用意します。
4-1. 5ステップの計算フロー
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対象期間の設定:補助事業完了日まで。
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対象取引の抽出:直接性の高い取引のみをリスト化。
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収入額の集計:対象取引の売上高や参加費等を合算。
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対応する経費の控除:その収入を得るために要した原材料費、会場費、決済手数料、送料など直接対応の費用を差し引く。
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利益額の確定:3)-4)=直接収益額。これが補助金額控除の基礎。
4-2. ミニ演習(3例)
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例A:補助で導入したプリンターで製作した名入れ商品を販売
売上350,000円、材料費120,000円、梱包送料18,000円 → 直接収益=212,000円
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例B:自社ECに決済機能を新設、完了日までに受注
売上480,000円、決済手数料14,400円、発送費28,000円 → 直接収益=437,600円
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例C:PRセミナー(有料)
参加費収入200,000円、会場費55,000円、受付外注22,000円 → 直接収益=123,000円
※人件費や共通費の扱いは「その収益獲得に直接ひもづくか」を基準に、合理的な按分根拠を用意しておくと審査で強いです。
5. 申請から交付までの時系列で見る:どの時点で何を記載・証憑化するか
5-1. 申請段階
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収入金に関する事項:該当見込みがあれば「あり」。
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想定内容の具体化:「展示販売会での現地販売」「EC新設による受注」等を簡潔に記載。
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計測方法の明示:会計科目、受注ログ、決済レポート、在庫連携の記録方法を決めておく。
5-2. 実行段階(事業期間中)
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取引ログの一元管理:対象取引は必ずタグ付け(例:案件No、イベント名)。
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証憑のセット化:見積・発注・納品・請求・入金がひと目で追えるように電子保管。
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収益予兆の把握:完了直前に売上が立ちそうな場合は、計測モレが出ないよう準備。
5-3. 実績報告・交付段階
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対象収入の一覧表:日時、金額、対応経費、差引利益、証憑IDを表で提示。
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控除額のロジック:計算式と前提(按分基準・対象期間)を明記。
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差戻し対策:グレーな取引は“直接性の説明メモ”を添付。
6. ありがちな躓きと回避策:差戻し・減額・返納を防ぐ実務チェックリスト
チェックリスト(抜粋)
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直接収益の定義を、社内運用マニュアルに明文化したか
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受注・決済・出荷・入金の時系列が追跡可能か
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直接収益とみなした取引の対応経費を網羅できているか
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展示会やECの売上が補助取組とリンクしていることを示すデータがあるか
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実績報告の一覧表に、証憑ID/URLを付したか
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申請時に「収入金あり」と宣言した内容と整合しているか
よくあるNG
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「広告で売上増=収益納付」と誤って自己申告(本来は対象外のことが多い)。
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受注はあったが対象期間外の売上を混在。
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請求書はあるが入金証跡が欠落。
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直接経費の控除が不十分で、過大な納付額を計上。
7. よくある質問(FAQ)と回答例
Q1. 事業完了の翌月にECで売れた分は対象?
A. 原則、事業完了までに発生した収益が対象。翌月の売上は期間外。ただし完了日をまたぐ受注・入金の扱いは契約・規定に沿って整理(受注日基準か入金日基準かを明示)。
Q2. ECのカートは既存、今回は商品ページ改善だけ。直接収益?
A. 決済・販売機能の新設や出店が補助対象でない限り、直接性は弱い。通常は収益納付にはならない。
Q3. 展示会で商談→2週間後に受注・納品。対象?
A. 展示会の場で受注・前金が発生していれば対象になり得る。後日受注でも、展示会起点の可視化(商談履歴、見積番号、展示会限定オファー適用の記録等)が十分なら、直接性の主張は可能だが、審査側の判断幅があるため、根拠の濃さが決め手。
Q4. 直接経費に人件費は入る?
A. 受注処理や会場運営など対象収益獲得に不可欠で、合理的に按分可能なものはロジックを添えて計上余地あり。根拠の提示がない一般人件費の広範な控除は通りにくい。
Q5. 収益が出る見込みを申請時に書き忘れた。どうする?
A. 実績報告で事実ベースで開示する。申請内容と異なる点は、理由と対策を補足メモで説明し、透明性を担保。
8. まとめ:収益納付を味方にして、無駄のない補助金活用へ
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収益納付は**“直接性”**がコア。起点・連続性・代替不可能性・証憑の4観点で判定。
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設備導入やEC新設、展示会での即売、新商品販売、有料イベントの参加費などは対象になりやすい。
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広告・一般的なサイト改修・店舗改装は間接効果として扱われ、通常は対象外。
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計算は「収入-直接対応経費」。期間厳守と証憑一元化で差戻しを回避。
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申請段階で測定方法と想定収益を明記し、実績報告では一覧表+根拠で整合を取る。
収益納付の論点を早めに整理しておけば、交付時の控除や実績報告で慌てることはありません。制度の意図に沿った設計と記録運用で、“減点”ではなく“安心”を手に入れましょう。

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