小規模事業者持続化補助金
賃金台帳は全従業員分を提出する必要があるのか?

小規模事業者持続化補助金では、採択後に「事業場内最低賃金の引上げ」が要件となるケースがあります。その際、証拠資料として求められるのが「賃金台帳」です。しかし「対象者だけ出せばいいのか」「全従業員分が必要なのか」といった点で疑問を持つ事業者は少なくありません。本記事では、公式の取り扱いを踏まえながら、賃金台帳の提出範囲や注意点をわかりやすく解説します。
この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也
大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。
中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
応用情報処理技術者、Linux Professional、ITIL Foundation etc
目次
賃金台帳の提出範囲は「全従業員」
小規模事業者持続化補助金における「賃上げ特例」では、申請者が事業場内最低賃金を50円以上引き上げることを誓約する代わりに、補助上限額が増額されます。その際、賃上げが確実に行われたことを確認するために、賃金台帳の提出が義務づけられています。
提出範囲について誤解が多いのが「賃上げ対象者の分だけ出せばよいのではないか」という点です。しかし、事務局の公式回答では「全従業員(役員・専従者を除く)の賃金台帳が必要」とされています。これは、事業場内の最低賃金が誰であるかを確認するためには、従業員全員のデータがなければ判断できないためです。もし一部のみを提出した場合、最低賃金の判断根拠が欠落し、不備として差し戻されるリスクが高まります。
したがって、正社員だけでなく、パートやアルバイト、短時間勤務のスタッフなども含めて全員分を準備する必要があります。
提出が不要となる主なケース(対象外となる従業員)
一方で、すべての在籍者が対象になるわけではありません。役員や個人事業の専従者といった、労働基準法上「労働者」とみなされない者は提出不要です。また、日雇い労働者や2か月以内の有期契約者、季節的業務で4か月以内に限定されて雇用された者なども対象外とされています。
ただし注意点として、契約期間が短期であっても結果的に契約更新が繰り返され、継続的な雇用関係にあると判断される場合は「常用的な雇用」と見なされ、提出対象になる可能性があります。実際の取り扱いは雇用契約の実態によって判断されるため、曖昧な場合は申請前に事務局や専門家へ確認しておくことが望ましいです。
事業場内最低賃金の考え方と時間当たり換算の必要性
補助金における「事業場内最低賃金」とは、事業所内の全従業員の中で最も低い時間当たり賃金を指します。重要なのは、給与形態にかかわらずすべて「時間当たり」に換算して比較する必要があることです。
例えば時給制の従業員であればそのままの時給額を用いますが、日給制の場合は日給を所定労働時間で割って時間当たりの単価を算出します。月給制であれば月給を所定労働時間で割って時給換算を行います。このとき、年間所定労働時間を12分割して月ごとの時間数を算出する方法が一般的です。
また、換算にあたっては基本給をベースにする必要があります。時間外手当や深夜割増、通勤手当、出張旅費、臨時的な賞与などは含めない扱いとなるのが通常です。基本給の部分で+50円の引き上げが確認できなければ、要件を満たしたことになりません。
賃上げ要件で求められる水準と給与形態ごとの注意点
持続化補助金の賃上げ特例では「事業場内最低賃金を50円以上引き上げる」ことが条件です。この「引き上げ」が有効であるためには、歩合給や手当の増額ではなく、基本給部分が確実に50円以上上がっている必要があります。
たとえば、基本給18万円+歩合給2万円で月160時間勤務の従業員がいたとします。基本給部分だけで換算すると時給1,125円となります。この場合、歩合給を3万円に増額しただけでは賃上げと認められません。基本給を19万円に改定することで、1,187.5円となり、50円以上の引き上げが確認できるようになります。
年俸制の場合も注意が必要です。年俸総額と所定労働時間を明らかにし、時間当たりに換算したうえで+50円以上の改善が確認できる資料を提出する必要があります。
賃金台帳の提出タイミング
提出タイミングは大きく2つあります。
まず申請時点では、直近1か月分の賃金台帳を全従業員分提出します。ここで事務局は現状の事業場内最低賃金を確認し、引き上げが必要な金額を判断します。
次に、補助事業終了後の実績報告の際には、終了時点での直近1か月分を再度提出します。これにより、実際に賃上げが実行されているかを確認するわけです。歩合給が含まれる従業員については、直近1年分の賃金台帳が必要になる場合もあるため、早めに準備しておくことが重要です。
賃金台帳に必要な記載項目と作成のポイント
労働基準法上、賃金台帳には従業員ごとに氏名や雇用形態、賃金計算期間、支払日、労働時間数、賃金の各内訳、控除内容、総支給額などを記載する必要があります。補助金の審査では、これらに加えて「時間当たり換算が可能かどうか」が特に重視されます。
つまり、基本給と各種手当が明確に区別されて記載されていること、勤怠管理の時間数と賃金台帳の時間数が一致していることが重要です。もし曖昧な記載があれば、補助金審査において不備とされる可能性が高くなります。
実務でよくある不備と差し戻し事例
実務でよく発生する不備としては、以下のようなケースが代表的です。
一つ目は、従業員全員分を提出せず、一部のみの台帳を提出してしまうケースです。この場合、最低賃金の判定根拠が不十分とされ、差し戻しとなります。
二つ目は、歩合給の増額だけで基本給が上がっていないケースです。補助金の要件は基本給部分の引き上げにあるため、歩合給や手当だけでは認められません。
三つ目は、年俸制で時間当たり換算の根拠資料が不明確なケースです。年俸額と所定労働時間を明示することで初めて有効な確認ができます。
その他、賃金台帳と勤怠記録の時間数が一致していない、地域別最低賃金を下回っている月があるといった点も差し戻しの原因になりやすいです。
提出準備と実務対応の流れ
申請に備えて効率よく準備するためには、次のような流れを意識するとスムーズです。
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申請時点の従業員一覧を作成し、提出対象者を確定する。
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給与形態ごとに時間当たり換算を行い、最低賃金の従業員を特定する。
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賃金台帳のフォーマットを確認し、基本給・手当を明確に区分する。
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勤怠システムと照合して時間数の整合性を確認する。
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PDF化し、ファイル名や順番を整理して提出に備える。
特に、マイナンバーや不要な個人情報が含まれないように注意し、必要に応じて黒塗りなどの処理を行うことも大切です。
まとめ:全従業員分を漏れなく提出することが必須
小規模事業者持続化補助金の賃上げ特例を活用する場合、賃金台帳は役員・専従者を除く全従業員分が必須である点を押さえておく必要があります。給与形態にかかわらず時間当たりに換算し、基本給部分で50円以上の引き上げが確認できるように整備しなければなりません。
提出の不備や誤解があると差し戻しや不採択につながりかねないため、事前に準備を徹底することが重要です。適切な体制を整えることで、補助金を活用した設備投資や販路開拓がスムーズに進み、経営改善の効果も最大化できます。

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小規模事業者持続化補助金は、販路開拓や新サービス導入に大きく役立つ制度ですが、賃上げ要件や賃金台帳の提出方法など、実務面では戸惑う事業者も少なくありません。要件を誤解していたり、提出書類が不備となったりすれば、せっかくの申請が差し戻されるリスクがあります。
当社は 中小企業庁認定の経営革新等支援機関 として、数多くの補助金サポート実績を持っています。申請準備から実務対応まで丁寧にサポートし、事業者様が安心して補助金を活用できるよう伴走いたします。
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