経営力向上計画と事業年度の関係|認定タイミングと税制適用
設備投資を行い、経営力向上計画による税制優遇を活用しようとする際、見落とされやすいのが「事業年度」との関係です。
計画が認定されていても、認定のタイミングや事業年度の区切りを誤ると、税制措置が一切使えなくなるケースは少なくありません。特に決算期が近い企業や、年度をまたぐ設備投資を予定している場合は注意が必要です。
経営力向上計画には「計画期間」と「事業年度」という、似ているようで役割の異なる時間軸が存在します。この違いを正しく理解していないと、「計画は通っているのに税制が使えない」「申請が間に合わなかった」という結果につながりかねません。
本記事では、経営力向上計画と事業年度の関係を軸に、税制適用に必要な認定タイミング、決算期を踏まえた申請スケジュールの考え方、事業年度をまたぐ場合の実務上の注意点まで、制度を“確実に使い切る”ためのポイントを分かりやすく解説します。
この記事の監修
中小企業診断士 関野 靖也
大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。
中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
経営力向上計画における事業年度の基本
経営力向上計画を税制優遇に結びつけるうえで、「事業年度」の考え方は非常に重要なポイントとなります。多くの企業が見落としがちですが、経営力向上計画の実施期間と、会社の事業年度(決算期)は同じものではありません。
経営力向上計画は、3年から5年といった中長期の期間で策定される一方、税制措置は「どの事業年度に認定を受け、どの年度で設備を取得したか」によって適用可否が判断されます。そのため、この2つの時間軸を混同すると、計画が認定されていても税制優遇を受けられないという事態が起こり得ます。計画期間と事業年度の違い、そして両者がどのように関係しているのかを正しく理解することが、経営力向上計画を「制度として使える状態」にするための出発点となります。
計画の実施期間と事業年度の違い
経営力向上計画における「実施期間」と「事業年度」は、役割も考え方も異なる時間軸です。この違いを正しく押さえておかないと、税制措置の判断を誤る原因になります。
まず、計画の実施期間とは、経営力向上計画に基づく取組を実行するために企業が設定する期間を指します。
実施期間は原則として3年から5年の範囲で設定でき、企業の戦略や取組内容に応じて選択します。短期間で設備投資や業務改善を進める場合は3年、組織改革や生産体制の見直しなど時間を要する取組では5年とするなど、比較的柔軟に設計できるのが特徴です。
一方で、事業年度は会社の会計上の区切りであり、通常は1年間です。
多くの企業は4月から翌年3月までを事業年度としていますが、12月決算や9月決算など、決算期は企業ごとに異なります。この事業年度ごとに決算が行われ、法人税や所得税の申告も行われます。
ここで重要なのは、計画の実施期間と事業年度は自動的に連動するものではないという点です。
たとえば、実施期間を3年とした場合、その3年間の中には複数の事業年度が含まれます。税制優遇措置は計画期間全体で一括判断されるのではなく、「どの事業年度に、どの設備を取得したか」を基準に判定されます。
そのため、経営力向上計画を策定する際は、実施期間だけでなく、設備取得のタイミングがどの事業年度に該当するのかを意識して設計することが不可欠です。これが、税制措置を確実に適用するための実務上の重要ポイントとなります。
事業年度内認定の重要性
経営力向上計画を活用して税制優遇を受けるうえで、最も注意すべきポイントの一つが「事業年度内に認定を受けているかどうか」です。
中小企業経営強化税制では、設備を取得し、事業の用に供した事業年度内に計画の認定を受けていることが明確な適用要件として定められています。
この要件を満たさない場合、即時償却や税額控除といった税制措置は一切適用されません。
たとえば、3月決算の企業が3月中に設備を取得した場合、3月31日までに経営力向上計画の認定を受けていなければ、その年度での税制優遇は不可となります。認定が4月1日以降になった時点で、たとえ設備取得が適正であっても対象外となってしまいます。
よく誤解されやすいのが、「設備取得後60日以内であれば申請できる」という例外ルールです。
確かに、設備取得後60日以内に申請書が主務大臣へ到達していれば、形式上は申請自体が認められます。しかし、この例外が認められても、事業年度をまたいで認定を受けた場合には税制措置は適用されません。
たとえば、2月に設備を取得し、4月に申請・認定を受けた場合、60日ルールは満たしていても、事業年度を超えているため税制優遇は受けられない、という結果になります。
このように、事業年度内認定の要件は非常に厳格で、1日でも決算日を過ぎると適用外となります。特に決算期が近い時期の設備投資では、
・認定までに要する標準処理期間
・申請内容の補正や差し戻しの可能性
まで含めて逆算し、余裕を持ったスケジュール管理を行うことが不可欠です。
経営力向上計画の活用では、「設備をいつ買うか」だけでなく、「いつ認定を受けるか」を同時に設計することが、税制メリットを確実に得るための実務上の核心といえます。
計画期間内の設備取得要件
経営力向上計画に基づいて税制措置を受けるためには、設備投資を計画の実施期間内に行うことが大前提となります。
計画に記載した実施期間を過ぎてから取得した設備は、たとえ計画内容と関連性があっても「計画に基づく設備」とは認められず、税制優遇の対象外となります。
たとえば、実施期間を「2022年4月から2025年3月までの3年間」として認定を受けた場合、2025年4月以降に取得した設備は対象外となります。決算期や事業年度とは関係なく、あくまで「計画に定めた実施期間」が基準となる点に注意が必要です。
また、実施期間内であれば何でも認められるわけではありません。
設備を追加する場合には、
・設備取得
・変更申請
・変更認定
のすべてが実施期間内に完了している必要があります。実施期間の終了間際に設備投資を予定している場合、変更認定が間に合わなければ税制措置を受けられなくなるリスクがあります。
実施期間の満了が近づいているにもかかわらず、今後も設備投資を予定している場合は、期間延長の変更申請を事前に行う、または新たな経営力向上計画として再申請するといった対応が必要になります。
なお、計画期間は最長で5年と定められており、変更申請による延長であっても、当初の認定日から通算して5年を超えることはできません。期間延長を検討する際は、残りの実施期間と今後の投資計画を照らし合わせ、どのタイミングでどの手続きを行うべきかを慎重に判断することが重要です。
経営力向上計画では、「事業年度」だけでなく「計画期間」という時間軸も税制適用の可否を左右します。設備投資のスケジュールは、認定日・実施期間・決算期の3点をセットで管理することが、失敗しない実務運用のポイントです。
事業年度を考慮した申請タイミング
経営力向上計画を活用して税制優遇を受けるためには、計画内容そのものだけでなく、「いつ認定を受けるか」が極めて重要です。特に見落とされやすいのが、事業年度との関係です。
設備投資の内容や金額が要件を満たしていても、認定のタイミングが事業年度をまたいでしまうだけで、即時償却や税額控除が適用できなくなるケースは少なくありません。
本記事では、経営力向上計画の実施期間と事業年度の違いを整理したうえで、税制措置を確実に受けるために押さえておくべき「事業年度内認定」の考え方、決算期を意識した申請スケジュールの立て方、事業年度をまたぐ際の実務上の注意点までを、実例を交えながら分かりやすく解説します。
これから設備投資や計画申請を検討している方はもちろん、すでに経営力向上計画を運用中の方にとっても、「うっかり適用漏れ」を防ぐための必須知識となる内容です。
決算期を踏まえたスケジュール管理
決算期末が近い時期に経営力向上計画を申請する場合は、通常以上に慎重なスケジュール管理が求められます。
税制措置の可否は「事業年度内に認定を受けられるかどうか」で決まるため、申請時期の判断が極めて重要です。
認定までの標準処理期間は、電子申請で約14日、書面申請で約30日とされています。ただし、これは申請内容に不備がない場合の目安であり、記載漏れや確認事項が発生すると、照会や差し戻しによってさらに日数を要することがあります。
例えば、3月決算の企業が2月末に申請した場合、順調に進めば3月中旬には認定されますが、少しでも修正対応が生じると、事業年度内の認定に間に合わなくなるリスクがあります。
また、設備取得後に申請できる「60日ルール」を活用する場合でも、事業年度内認定が必要である点には注意が必要です。3月決算の企業が2月1日に設備を取得した場合、60日以内の4月1日までに申請すれば形式上は受理されます。しかし、認定は新しい事業年度となるため、前期分として即時償却や税額控除を受けることはできません。
こうしたリスクを避けるためには、決算期末の少なくとも2か月前までに申請を完了させておくことが安全策となります。3月決算の企業であれば、1月中に申請を行うことで、多少の照会や修正が発生しても、余裕を持って事業年度内認定を受けることが可能です。
設備取得時期の最適化
設備投資を事業年度のどのタイミングで行うかは、経営力向上計画を活用した税務戦略において非常に重要なポイントです。選択する税制措置によって、最適な取得時期の考え方が異なります。
即時償却を選択する場合は、設備をできるだけ事業年度の早い段階で取得し、事業の用に供することで、税制メリットを最大化できます。
例えば、4月に設備を取得・稼働させれば、その事業年度において償却費を最大限計上できます。一方、3月に取得した場合でも即時償却は可能ですが、期末直前の取得となるため、資金繰りや事前準備の面では余裕がなくなります。決算対策として活用する場合でも、早めの取得が望ましいといえます。
税額控除を選択する場合は、取得時期による影響は即時償却ほど大きくありません。ただし、税額控除を適用するためには、設備を取得した事業年度内に経営力向上計画の認定を受けていることが前提となります。取得が年度末に近づくほど、認定が間に合わないリスクが高まる点には注意が必要です。
いずれの制度を選択する場合でも、利益が大きく見込まれる事業年度に設備投資を行うことが、税制措置の効果を高める基本的な考え方となります。
中長期の事業計画や利益予測と照らし合わせながら、取得時期と申請タイミングを戦略的に設計することが重要です。
複数年度にわたる計画の管理
経営力向上計画は、1年で完結する制度ではなく、複数の事業年度にまたがって実行・管理していく計画です。そのため、各年度ごとに何を行うのかを整理し、計画的に運用することが重要となります。
初年度に設備投資を行い、即時償却や税額控除といった税制措置を適用した後も、計画期間中は経営力向上に向けた取組を継続して実施していきます。2年目、3年目に追加の設備投資を行う場合には、その都度、変更申請を行い、事業年度内に変更認定を受けることが必要です。初回認定があるからといって、後年度の設備投資が自動的に対象になるわけではありません。
また、各事業年度の決算時には、計画の進捗状況を必ず確認します。
労働生産性や有形固定資産回転率など、計画で設定した経営指標について、当初の想定どおり改善が進んでいるかを数値で把握することが重要です。これらの確認は、次回の変更申請や金融機関への説明資料としても役立ちます。
計画期間の満了が近づいた段階では、今後の方針判断が必要となります。
引き続き設備投資や経営改善を進める場合は、期間延長の変更申請を行うのか、新たな経営力向上計画として再申請するのかを検討します。いずれの場合も、実施期間満了後に動くのではなく、満了前に手続きを行うことが重要です。
複数年度にわたる計画を成功させるためには、「各事業年度での設備投資」「変更申請の要否」「指標の進捗確認」をセットで管理する視点が欠かせません。
事業年度をまたぐ場合の注意点
経営力向上計画の申請や設備投資が事業年度をまたぐかどうかは、税制措置を受けられるか否かを分ける極めて重要なポイントです。
わずか数日の違いで、即時償却や税額控除が適用できなくなるケースもあり、実務上の判断ミスが大きな影響を及ぼします。
特に決算期が近い時期に設備投資や申請を行う場合、「申請は間に合ったが認定が翌年度になった」「60日ルールを使ったが税制が使えなかった」といったトラブルが起こりやすくなります。これは制度の仕組みを正確に理解していないことが原因で発生します。
この章では、経営力向上計画の申請・認定・設備取得が事業年度をまたぐ場合に注意すべきポイントを整理し、税制措置を確実に活用するために押さえておくべき実務上の考え方を解説します。
年度末の設備投資における注意事項
決算期が近い時期に設備投資を行う場合は、通常よりも慎重な判断が求められます。
特に税制措置の適用可否は、「いつ設備を取得したか」と「いつ認定を受けたか」の組み合わせで決まるため、年度末特有のリスクを正しく理解しておく必要があります。
例えば3月決算の企業が2月から3月にかけて設備を取得する場合、申請から認定までの期間が非常にタイトになります。電子申請であっても標準処理期間は約14日かかるため、3月中旬以降の申請では事業年度内に認定が完了しない可能性が高くなります。この場合、設備を取得していても当期の税制措置は適用できません。
また、年度末に設備を発注したものの、納品や検収が翌期にずれ込むケースにも注意が必要です。経営力向上計画における「取得時期」は、発注日ではなく、原則として設備を取得し事業の用に供した日で判断されます。納品が翌期となれば、取得も翌事業年度扱いとなり、当期の税制措置は対象外となります。
このように年度をまたぐことが避けられない場合は、無理に当期中の設備取得にこだわる必要はありません。認定スケジュールに余裕を持たせ、翌事業年度で計画的に設備を取得した方が、結果として確実に税制措置を活用できるケースも多くあります。
年度末の設備投資では、「当期に間に合うか」だけでなく、「認定まで含めて事業年度内に完結できるか」という視点で判断することが重要です。
申請中に事業年度が変わる場合
経営力向上計画では、申請日ではなく「認定を受けた事業年度」が税制措置の可否を左右します。そのため、申請手続きの途中で事業年度が切り替わるケースには特に注意が必要です。
例えば、3月決算の企業が2月に設備を取得し、同月中に経営力向上計画を申請した場合でも、審査が長引いて認定日が4月になると、前事業年度(3月末まで)の税制措置は適用できません。申請自体は期限内であっても、「事業年度内に認定を受けていない」という一点で、即時償却や税額控除の対象外となってしまいます。
このようなリスクを確実に回避する方法は、設備取得前に計画認定を受けておくことです。原則どおり「認定 → 設備取得」という順序を守れば、申請中に事業年度が変わる問題は発生しません。やむを得ず設備取得後に申請する場合は、できるだけ早期に申請を完了させ、事業年度内に認定が下りるよう時間的余裕を確保することが不可欠です。その際、記載漏れや数値不整合による差し戻しが発生すると、認定が翌期にずれ込むリスクが一気に高まります。
申請スケジュールがタイトな場合や判断に迷う場合は、認定経営革新等支援機関などの専門家に事前確認を行い、申請内容の完成度を高めてから提出することが、結果的に税制メリットを守る近道となります。
実施期間満了と事業年度の関係
経営力向上計画では、計画の実施期間の終了時期と決算期の重なり方が、実務上の大きなリスクポイントになります。特に、実施期間の終盤で設備追加を検討する場合は注意が必要です。
計画期間内に新たな設備を追加する場合、
①変更申請 → ②設備取得 → ③変更認定
この一連の手続きを、すべて実施期間内に完了させる必要があります。実施期間を1日でも過ぎてしまうと、その設備は計画に基づく投資として認められず、税制措置の対象外となります。
例えば、実施期間が「2022年4月〜2025年3月」、決算期も3月の企業が、2025年3月に設備を追加しようとするケースでは、3月31日までに変更認定まで完了させなければなりません。電子申請でも認定まで約14日を要するため、実質的には手続きが間に合わない可能性が極めて高くなります。
このようなリスクを避けるためには、次のいずれかの対応が有効です。
実施期間を延長することで、設備投資のタイミングに柔軟性が生まれ、決算期に追われる形での無理な申請を避けることができます。計画期間と事業年度の関係を意識した設計が、経営力向上計画を安全に活用するための重要なポイントです。
まとめ
経営力向上計画において事業年度は極めて重要な要素です。税制措置を受けるためには、設備を取得し事業の用に供した事業年度内に認定を受けることが必須であり、事業年度を超えると税制優遇を受けられなくなります。決算期を考慮したスケジュール管理が不可欠で、決算期末の2ヶ月前には申請を完了させることが推奨されます。計画の実施期間は3年から5年で設定できますが、設備取得は必ず実施期間内に行う必要があります。複数年度にわたる計画では、各事業年度で適切な管理を行い、追加投資の際は事業年度内認定を意識したタイミングで変更申請を行いましょう。
事業年度との関係を正しく理解し、計画的な申請と設備投資を実施することで、税制メリットを最大限に活用できます。