新規事業売上予測の立て方|6ステップと精度を高める4つのポイント

新規事業の成否を左右する売上予測は、事業計画の中核となる要素です。金融機関からの融資獲得や社内承認、適切なリソース配分のすべてに影響を与えます。
本記事では、説得力のある売上予測を立てるための具体的な手順と、精度を高めるための実践的なポイントを詳しく解説します。
この記事の監修
中小企業診断士 関野 靖也
大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。
中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
新規事業における売上予測とは
新規事業の売上予測とは、過去のデータや市場調査をもとに、今後の売上推移を予測することです。既存事業と異なり、自社の過去実績がないため、市場データや競合情報、顧客調査などの外部情報を活用して予測を立てる必要があります。
売上予測は単なる数値目標ではありません。事業の実現可能性を示す根拠であり、人材配置や在庫管理、資金繰りなど、経営判断の基礎となる重要な指標です。特に金融機関から融資を受ける際には、信頼性の高い売上予測が必須となります。
売上予測と売上目標は異なります。売上目標は「達成したい理想の数値」であるのに対し、売上予測は「客観的なデータに基づいて実現可能な数値」を示すものです。新規事業では、この両者を明確に区別し、説得力のある予測を立てることが求められます。
売上予測の2つの算出方法
新規事業の売上予測には、大きく分けて「トップダウン」と「ボトムアップ」の2つのアプローチがあります。それぞれの特徴を理解し、状況に応じて使い分けることが重要です。
トップダウン方式
トップダウン方式は、市場規模全体から自社のシェア率を想定して売上を算出する方法です。計算式は「市場規模×想定シェア率=予測売上高」となります。
既存データのない新規事業では、トップダウンの方が計算は比較的容易です。業界レポートや公的統計から市場規模を把握し、競合状況を分析して現実的なシェア率を設定します。
ただし、市場規模やシェア率のデータは仮定の要素が強くなりがちです。特に新興市場や急成長市場では、市場規模そのものの予測が難しく、実態とのズレが生じやすい点に注意が必要です。
ボトムアップ方式
ボトムアップ方式は、顧客の購買行動や利用頻度など、個別の積み上げから売上を算出する方法です。「客単価×購入頻度×顧客数=予測売上高」といった形で、より具体的な要素から計算します。
業界における既存顧客の動きをもとに予測を立てるため、データさえ集まれば精度の高い予測が可能です。顧客インタビューやアンケート調査、テスト販売の結果などを活用することで、実態に近い数値を導き出せます。
理想的には、トップダウンとボトムアップを両方実施し、中間点のデータを採用する方法です。両面から検証することで、大きなズレの起きにくい予測を立てられます。
売上予測を立てる6つのステップ
精度の高い売上予測を立てるには、体系的なプロセスに従うことが重要です。以下の6ステップで進めることで、説得力のある予測を作成できます。
ステップ1:算出方法を選択する
まず、トップダウンとボトムアップのどちらで算出するか、あるいは両方を併用するかを決定します。事業特性や入手できるデータの種類によって、最適な方法は異なります。
B2C事業で顧客数が多い場合はボトムアップが適していますが、B2B事業で大口顧客が中心の場合はトップダウンも有効です。可能であれば両方を実施し、数値を照合することで予測の信頼性が高まります。
ステップ2:予測期間を決定する
売上予測を何年先まで立てるかを決定します。一般的には、最低でも3年間の年次売上と初年度の月次売上が必要です。金融機関から融資を受ける場合は、返済期間分の売上計画も求められます。
短期(1年)、中期(3年)、長期(5年以上)と段階的に予測を立てることで、事業の成長シナリオが明確になります。長期計画は概算でも構いませんが、初年度は月次での精緻な予測が求められます。
ステップ3:業種別の計算式を決定
業種によって売上を構成する要素は異なります。自社の事業特性に合った計算式を選択することが重要です。
小売業(店舗販売)の場合は「1㎡あたりの売上高×売り場面積」、飲食店や理容業では「客単価×席数×回転数×営業日数」、製造業や運送業では「設備の生産能力×設備数」といった形で計算します。
日本政策金融公庫の「小企業の経営指標」など、業種ごとの平均値を参考にすることで、現実的な数値を設定できます。地域差や立地条件も加味して、より精緻な予測を立てましょう。
ステップ4:必要なデータを収集する
売上予測の根拠となるデータを収集します。新規事業では自社の過去データがないため、外部から以下のような情報を集める必要があります。
業界の平均値、競合企業の売上データ、公的な統計データなどが基本となります。加えて、アンケート調査や店舗周辺での実地調査、顧客インタビューなど、自社独自の1次データを収集することが非常に重要です。
金融機関は、インターネット上に転がっているデータをそれらしく加工した資料にうんざりしています。自社でリサーチした独自データがあれば、評価は格段に高くなります。
ステップ5:実際に計算する
収集したデータをもとに、実際に売上予測を計算します。たとえば理容業の場合、客単価4,000円、セットチェア3席、回転数4回転、月間25日稼働という条件なら、月次売上は「4,000円×3席×4回転×25日=120万円」となります。
月次売上が算出できたら、それをベースに年次予測を立てます。複数年の予測を立てる際には、売上の成長率も加味する必要があります。ただし、新規事業では成長率を過剰に見込む傾向があるため、保守的で現実的な数値を採用してください。
ステップ6:収支計画と整合性を確認する
売上予測から各種経費を差し引き、損益分岐点を算出します。売上予測と損益分岐点との乖離度(損益分岐点比率)は、事業の健全性を示す重要な指標です。
一般的に、損益分岐点比率が80%以下であればかなり優良、90%以下であれば安全圏とされています。90%を超える場合は危険領域に入っているため、コスト構造の見直しや売上計画の再検討が必要です。
説得力のある売上予測の4つのポイント
売上予測の精度を高め、金融機関や社内の意思決定者を納得させるには、以下の4つのポイントを押さえることが重要です。
根拠となるデータを揃える
金融機関の融資担当者は、毎日何件もの融資申請を見ています。申請者が作った資料が、きちんとしたデータに基づいているかどうかは、すぐに見破られてしまいます。
事業計画書を作る前に、根拠となるデータは必ず揃えてください。特に、アンケート調査や店舗周辺での聞き取り調査の結果は、あなたの企業だけが持つオリジナルデータです。こういった1次情報がきちんと反映されている計画書があれば、金融機関は非常に高く評価してくれます。
データの出典も明記し、検証可能な状態にしておくことが重要です。「○○調査によると市場規模は△△億円」といった形で、具体的な情報源を示しましょう。
複数シナリオを用意する
売上予測には不確実性が伴います。そのため、楽観シナリオ、標準シナリオ、悲観シナリオの3パターンを用意することが効果的です。
標準シナリオを基本としつつ、市場環境が良い場合と悪い場合の両方を想定することで、リスク管理の視点が示せます。金融機関も、複数シナリオがある方が事業の実現可能性を判断しやすくなります。
早期黒字化を目指す
新規事業をどのくらいの期間で黒字化させるかは、経営者によって判断が異なります。一般的には3年から5年の事業計画が多いですが、できるだけ1年以内の黒字化を目指すべきです。
黒字までの厳しい時期が長引くほど、資金が枯渇して倒産する確率が高くなります。いったん新規事業がスタートすれば、途中で苦しくなっても基本的に追加融資は受けられません。早期黒字化の計画は、リスクを最小化する重要な戦略です。
小さくても実績を作る
金融機関は実績を非常に重視します。新規事業ですから実際の売上を提示するのは難しいとしても、テスト販売の結果、顧客からの引き合い数、アンケートでの購入意向率など、何らかの実績は作れるはずです。
実際の結果よりも、手間をかけてこういった独自の調査を行う姿勢が、金融機関への信用につながります。信頼も資金もない段階では、こういった実績づくりを心がけることが重要です。
売上予測でよくある失敗と注意点
新規事業の売上予測では、いくつかの典型的な失敗パターンがあります。これらを事前に理解しておくことで、より精度の高い予測が可能になります。
成長率の過大評価
最も多い失敗は、売上の成長率を過大に見積もることです。特に初年度から急成長を見込む計画は、現実味が薄く、信頼性を損ないます。
新規事業の立ち上げには時間がかかります。認知度の向上、顧客獲得、オペレーションの確立など、多くのプロセスを経て初めて安定成長に入ります。保守的な成長率を設定し、達成可能な計画を立てることが重要です。
市場規模の見誤り
トップダウン方式で陥りがちなのが、市場規模の見誤りです。全体市場を対象にするのではなく、自社が実際にアプローチできるターゲット市場(TAM、SAM、SOM)を明確に定義する必要があります。
全国市場の規模を示しても、実際に事業展開できるのが特定地域のみであれば、その地域の市場規模をベースに予測すべきです。現実的なアプローチ可能市場を設定しましょう。
固定費の過小評価
売上予測に目が行きがちですが、固定費の見積もりも同様に重要です。人件費、家賃、広告費など、実際には想定以上のコストがかかることが多いため、余裕を持った設定が必要です。
損益分岐点が売上予測に近すぎると、わずかな売上の未達で赤字に転落します。十分な安全マージンを確保した計画を立てることが、事業継続の鍵となります。
売上予測の精度を高める方法
最後に、売上予測の精度をさらに高めるための実践的な方法を紹介します。これらを実行することで、より信頼性の高い予測が可能になります。
競合分析を徹底する
類似サービスを提供する競合企業の売上や成長率を調査することで、自社の予測の妥当性を検証できます。上場企業であれば決算資料から詳細なデータが入手できますし、非上場企業でも業界レポートなどから推定が可能です。
競合の初年度売上や成長曲線を参考にすることで、自社の予測が楽観的すぎないか、あるいは保守的すぎないかを判断できます。
顧客インタビューを実施する
最も精度の高い情報は、実際の顧客から得られます。ターゲット顧客候補に対して、価格設定や購入意向、利用頻度などをヒアリングすることで、机上の空論を避けられます。
可能であれば、プロトタイプやMVPを用いたテスト販売を実施し、実際の購買データを取得することが理想的です。小規模でも実データがあれば、予測の信頼性は大きく向上します。
定期的な見直しと修正
売上予測は一度作って終わりではありません。事業開始後は、実績と予測を定期的に比較し、ズレがあれば原因を分析して予測を修正します。
月次でのモニタリングを行い、市場環境の変化や競合の動向、顧客のフィードバックなどを反映させながら、予測をアップデートしていくことが重要です。
まとめ
新規事業の売上予測は、事業計画の根幹をなす重要な要素です。トップダウンとボトムアップの両面から検証し、業種特性に合った計算式を用いて、客観的なデータに基づいた予測を立てることが求められます。
6つのステップに従って体系的に予測を作成し、根拠データの収集、複数シナリオの用意、早期黒字化の計画、実績づくりの4つのポイントを押さえることで、説得力のある売上予測が完成します。
成長率の過大評価や市場規模の見誤りといった典型的な失敗を避け、競合分析や顧客インタビューを通じて精度を高めることで、金融機関からの融資獲得や社内承認の確率が大きく向上します。新規事業の成功に向けて、信頼性の高い売上予測を作成しましょう。

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