製造業の新規事業成功例から学ぶ戦略と成功のポイント

製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。従来の「モノ売り」から「コト売り」へのビジネスモデル転換が求められる中、新規事業の成功事例から学ぶことは多くあります。
本記事では、コマツやダイキン、ファーストリテイリングなど、製造業における新規事業の成功例を詳しく紹介し、そこから導き出される共通のポイントと実践的な戦略を解説します。
この記事の監修
中小企業診断士 関野 靖也
中小企業診断士 関野 靖也
大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。
中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
製造業が新規事業に取り組む理由
製造業が新規事業開発を急ぐ背景には、市場環境の劇的な変化があります。従来のビジネスモデルでは対応しきれない課題が次々と現れています。
日本の経済を牽引してきた製造業は、要望された仕様を「より安く・早く」提供する請負型・売り切り型のビジネスモデルによって成長してきました。品質・コスト・納期を重視し、顧客企業が望む性能の製品を予算内かつ納期までに提供することに注力してきたのです。
しかし、マクロ環境の変化によって、この従来のビジネスモデルは危機的な状況に直面しています。カーボンニュートラルへの対応や災害対策の必要性、デジタル化の加速、グローバル競争の激化など、製造業を取り巻く環境は急速に変化しています。大量生産・大量消費・コスト競争の中で優位に立つだけでは、もはや生き残れない時代になりました。
こうした環境変化に対応するため、製造業は「モノ」から「コト」へ、価格競争力から価値提供へと、ビジネスモデルを転換する必要に迫られています。新規事業の創出は、この変革を実現するための重要な手段なのです。
また、製造業以外の他業界と連携したエコシステムへの発展も可能となり、製造業の枠を超えた新たなビジネス機会が生まれる可能性も秘めています。
コマツの成功例:建設現場のデジタル化
建設機械大手のコマツは、デジタル技術を活用した新規事業で大きな成功を収めています。同社の事例は、製造業における新規事業の模範といえるでしょう。
Komtraxによる遠隔監視システム
コマツは2001年に、建設機械の情報を遠隔で確認できるシステム「Komtrax」を標準装備した建機を世に送り出しました。このシステムは、機械の稼働状況、位置情報、燃料消費量、エンジン状態などをリアルタイムで把握できるIoTシステムです。
Komtraxから得られる稼働データを活用することで、バリューチェーン全体で継続的な価値提供を実現しています。AIが部品の劣化状態を把握し、故障前に交換時期を予測する予知保全システムも提供しており、顧客の建設機械のダウンタイムを最小限に抑えることができます。
この仕組みにより、単なる建機の販売にとどまらず、機械の保守管理からオペレーションの最適化まで、顧客の事業全体をサポートする価値を提供しています。
スマートコンストラクションの展開
さらにコマツは、「スマートコンストラクション」というソリューションを開発しました。これは、施工プロセス全体をデジタルでつなぎ、最適化するサービスです。
機械・人・材料データの可視化により、課題を早期発見できる仕組みを構築しています。ICT建機や遠隔操作を組み合わせることで施工現場全体を可視化し、建設現場をデジタルでつなぎ最適化する価値を提供しています。
ドローンを活用した地形測量や3Dマッピングサービスとも連携し、短時間で高精度な3D地形を生成してユーザーに提供しています。コマツの新規事業の特徴は、建設現場をデジタルでつなぎ最適化するという明確な顧客価値を提供している点です。
単に機械を売るのではなく、顧客の課題である人手不足や生産性向上に対するソリューションを提供することで、継続的な関係を構築しています。
ダイキンの成功例:空調空間のサブスク化
空調機器メーカーのダイキンも、新規事業で注目すべき成功を収めています。同社の「AaaS(Air as a Service)」は、製造業のサブスクリプションモデルの好例です。
Air as Serviceの仕組み
ダイキンは、空調機器の販売にとどまらず、快適な空気環境そのものを提供するサービスを展開しています。顧客はエアコンを購入するのではなく、快適な空調空間を月額料金で利用する仕組みです。
このモデルでは、機器の設置から保守メンテナンス、故障時の対応まで、すべてダイキンが責任を持って行います。顧客は初期投資を抑えながら、常に最適な空調環境を維持できるというメリットがあります。
また、IoTによる遠隔監視により、空調機の稼働状況を常時把握し、エネルギー消費の最適化も実現しています。
顧客価値の転換
この新規事業の核心は、「止まらない快適な空気環境」という顧客価値の提供にあります。従来は空調機という「モノ」を販売していましたが、顧客が本当に求めているのは快適な環境という「コト」です。
ダイキンは2021年より「オールコネクテッド戦略」を開始し、空調機をクラウド環境に接続して一括管理を可能にしました。これにより、オフィス空調設備のエネルギー消費量を最適化し、コスト削減と環境負荷の低減を実現しています。
設備管理者の人手不足に悩む企業にとって、運用・制御を効率化できるこのサービスは大きな価値があります。長期的に継続してもらうための仕組みを構築できているサービスが成功に近づくのです。
ファーストリテイリングの成功例:情報製造小売業への転換
アパレル製造小売業のファーストリテイリング(ユニクロ)も、製造業の新規事業として参考になる事例を提供しています。
製造小売業から情報製造小売業へ
ファーストリテイリングは、「作ったものを売る」のではなく、「消費者が欲しいものを作る」プラットフォームを確立しました。従来はお客様の声を反映した商品が店頭に並ぶまで2年かかっていた工程を、わずか2週間に短縮しています。
これを実現するために、顧客とダイレクトにつながる基盤としてECサイトを構築し、サプライチェーンの変革や業務フロー改革など、デジタル技術を活用した劇的な改善を行いました。顧客データを収集・分析し、需要予測の精度を高めることで、過剰在庫や機会損失を削減しています。
顧客視点の徹底
この転換の背景にあるのは、徹底した顧客視点です。顧客体験を起点に、どのような価値を提供すべきかを考え、そのためにビジネスモデル全体を再構築しました。
店舗とオンラインを統合したオムニチャネル戦略により、顧客はいつでもどこでも欲しい商品を手に入れることができます。このように、製造業においても顧客体験の向上を中心に据えることが、新規事業成功の鍵となっています。
ネスレ日本の成功例:消耗品サブスクモデル
飲料メーカーのネスレ日本も、製造業の新規事業として注目すべき成功例を生み出しています。
ネスカフェアンバサダーの仕組み
ネスレ日本は、ネスカフェのコーヒーマシンを職場やコミュニティで使ってもらうための施策として、「ネスカフェアンバサダー」という仕組みを構築しています。この仕組みでは、アンバサダーになると職場に無料で本格マシンが設置できます。
その代わりに、カートリッジを定期購入してもらう消耗品でのサブスクリプションモデルとなっています。初期投資なしでオフィスに本格的なコーヒーマシンを導入できるため、多くの企業や団体に受け入れられています。
オフィスコミュニケーションの活性化
この新規事業の優れた点は、単にコーヒーを提供するのではなく、「オフィス内コミュニケーションの活性化」という価値を提供していることです。一杯のコーヒーを起点に会話や笑顔を広げるという、顧客にとっての本質的な価値に着目しています。
従業員同士のコミュニケーションが活性化することで、職場の雰囲気が良くなり、生産性向上にもつながります。製品そのものではなく、製品がもたらす体験や効果に価値を見出した好例といえるでしょう。
旭鉄工の成功例:IoTシステムのパッケージ化
中小製造業でも、新規事業で成功している事例があります。自動車部品メーカーの旭鉄工株式会社は、自社のDX取り組みを新規事業に発展させました。
自社の成功体験を商品化
旭鉄工はIoTを積極的に活用することで生産性を大幅に改善し、労務費を年間4億円節減することに成功しました。この成功体験をそのまま詰め込んだシステムをパッケージ化し、他社に提供する新規事業を立ち上げたのです。
現在、このシステムは200社以上の企業に導入されています。自社で培ったノウハウを外販することで、新たな収益源を確保しただけでなく、中小製造業のDXを支援する社会的意義も生み出しています。
この事例は、製造業が持つ技術やノウハウを、新規事業として展開できる可能性を示しています。
製造業の新規事業成功に共通するポイント
これらの成功事例から、製造業の新規事業に共通する成功のポイントが見えてきます。
顧客体験を起点とした価値提供
すべての成功事例に共通するのは、顧客体験を起点に価値を設計していることです。従来の製造業は技術力やコア・コンピタンスを起点にバリューチェーンを描いていました。
しかし、新規事業では全く逆のアプローチが必要です。まず「顧客の優先事項」について考え、それをどんな「チャネル」で認知・購買してもらうか決めたうえで、具体的に提供する内容を決めていきます。
顧客が本当に困っている課題は何か、どのような体験を提供すれば満足してもらえるかを徹底的に考え抜くことが、成功の第一歩となります。
継続的な関係構築の仕組み
「モノ売り」から「コト売り」への転換において重要なのは、顧客との継続的な関係構築です。成功している新規事業は、いずれもサブスクリプションモデルやサービス提供型のビジネスモデルを採用しています。
単発の販売で終わらせず、長期的に顧客と関わり続けることで、安定的な収益基盤を構築できます。また、継続的な接点を持つことで、顧客のニーズ変化にも素早く対応でき、サービスの改善や新たな価値提供につなげることができます。長期的に継続してもらうための仕組みを構築できているサービスこそが、真の成功に近づくのです。
デジタル技術の積極的な活用
すべての成功事例で、IoTやAI、クラウドといったデジタル技術が活用されています。デジタル化は現代のビジネスモデルに不可欠な要素です。
デジタル技術を活用して業務プロセスを効率化したり、顧客体験を向上したり、新しいビジネスモデルを生み出す一つのきっかけになります。製造業においても、デジタル化を推進するDXの動きは加速しており、これを新規事業創出のチャンスと捉える姿勢が重要です。
既存リソースの再活用
成功している新規事業の多くは、既存の技術や顧客基盤、製造設備といったリソースを活用しています。完全にゼロから始めるのではなく、自社の強みを新しい形で提供することで、競争優位性を確保しています。
コマツであれば建機の製造技術と顧客基盤、ダイキンであれば空調技術、旭鉄工であれば自社で培ったIoTノウハウというように、既存リソースを新規事業に活かすことが成功のカギとなっています。
まとめ
製造業における新規事業の成功例として、コマツのスマートコンストラクション、ダイキンのAaaS、ファーストリテイリングの情報製造小売業、ネスレ日本のネスカフェアンバサダー、旭鉄工のIoTシステムパッケージを紹介しました。
これらの事例に共通するのは、従来の「モノ売り」から「コト売り」への転換であり、顧客体験を起点とした価値提供です。
顧客との継続的な関係構築の仕組みを持ち、デジタル技術を積極的に活用し、既存リソースを再活用することが、製造業の新規事業成功のポイントとなります。マクロ環境の変化が加速する中、製造業にとって新規事業の創出は生き残りをかけた重要な戦略です。
成功事例から学び、自社の強みを活かした新たな価値提供の形を模索することで、持続的な成長を実現できるでしょう。製造業の枠を超えた新たなビジネス機会を掴み、変化の時代を勝ち抜いてください。

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