新規事業着工力を高めるための戦略と実践的アプローチ

新規事業の成功には、優れたアイデアだけでなく「着工力」が不可欠です。日本企業が新規事業で苦戦する理由は、能力の問題ではなく、適切に始める事業数が少ないことにあります。

本記事では、新規事業の着工ステージにおける5つのフェーズと、組織として着工力を高めるための具体的な方法を詳しく解説します。

この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也

大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。

中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士

新規事業着工力とは何か

新規事業着工力とは、組織が新規事業に挑戦し、適切に開始できる能力のことです。この能力を高めることが、企業の未来を切り拓く鍵となります。新規事業の成功数は、シンプルな方程式で表すことができます。それは「新規事業の成功数 = A:適切に始める新規事業数 × B:成功確率」という式です。

 

多くの企業は成功確率Bを高めることに注力しますが、実は適切に始める新規事業数Aを増やすことの方が、成功数を増やすためには重要なのです。日本企業は新規事業が下手なのではなく、新規事業への挑戦、つまり着工が減っていることが真の問題です。

 

モバイルインターネット、コンビニ、キャッシュレス決済など、日本企業には「立ち上げ」のポテンシャルがあります。より多くの打席に立つ、すなわち新規事業への挑戦の回数を増やすことができれば、必然的に成功数も増えていくでしょう。

 

着工ステージでの意思決定が新規事業の成否を決めます。この最初のステージで適切なプロセスを踏み、定石を押さえることで、組織としての新規事業着工力を高めることができます。

着工ステージの5つのフェーズ

新規事業の着工ステージは、5つの重要なフェーズに分かれています。それぞれのフェーズで押さえるべき定石と留意点を理解することが、着工力向上の第一歩です。

フェーズ1:方針設定

着工ステージの最初のフェーズは、方針設定です。ここでは新規事業に取り組む目的とゴールを明確に設定します。何のために新規事業を行うのか、どのような状態を目指すのかを明確にすることで、その後のプロセス全体の方向性が定まります。進出する領域を大枠で定め、そこで達成すべき目的も検討する必要があります。

 

新規事業によって会社をどのように発展させたいのか、あるいは、いかにして社会に貢献するべきかといった観点を含めて考えることが重要です。目的を明確にし、全社で認識を統一できれば、新規事業が成功する確率はさらに高まります。

 

また、コーポレート戦略の観点から、決めた目標へ向けて推進し続ける体制であるかどうかも確認が必要です。目的意識と推進体制を整えることで、初めて次のフェーズに進むことができます。

フェーズ2:事業アイデアの探索・幅出し

方針が定まったら、次は事業アイデアを幅広く探索します。このフェーズでは、6つの定石的アプローチを活用することが推奨されています。できるだけ様々な観点からビジネスアイデアを増やすことが重要です。

 

初期段階できれいに整理できるケースはまれですが、多様なアイデアを出すことで、「何がわかっていて何がわかっていないのか」が明確になってきます。

 

新規事業では、初期アイデア創出ステージが極めて重要です。前工程で描いた新事業やプロダクト案がイケていなかった場合に、プロセスの後工程の努力で挽回できることはほぼありません。

 

だからこそ、この段階で質と量の両面からアイデアを充実させる必要があります。フレームワークを駆使して、できるだけ多くのアイデアを出しましょう。

フェーズ3:ショートリスト化

多数のアイデアの中から、実際に検討を進めるものを絞り込むフェーズです。ここでは評価基準、ものさしを設定することが重要になります。「売れるか」「勝てるか」「儲かるか」「できるか」といった論点に基づいて、各アイデアを評価します。主観的な判断だけでなく、明確な基準を設けることで、組織として納得感のある選定が可能になります。

 

評価する際には、ターゲット市場の規模や成長性、顧客ニーズの強さ、競合状況、自社の強みを活かせるかどうか、実現可能性など、複数の視点から検討することが求められます。この段階で適切な絞り込みができるかどうかが、後のリソース配分の効率性に直結します。

フェーズ4:事業化詳細検討

ショートリストに残ったアイデアについて、詳細な検討を行います。事業プランに必要な要素を確認し、具体化していくフェーズです。

 

ターゲット市場、顧客ニーズ、商品サービス、ビジネスモデル、競合状況、競争優位性、マーケティング施策、財務計画、事業体制、事業リスクと対策、実行スケジュールなど、事業計画書の各項目を詰めていきます。ニーズがわかり、提供するものがわかったら、ビジネスモデルを組み立てます。

 

収益モデルやアライアンスパートナーの存在、優位性構築のための投資活動なども含めて設計する必要があります。この段階では、ある程度ラフであっても顧客に評価を依頼するスタンスが重要です。作っては修正、作っては修正、というPDCAを回していくことが求められます。

フェーズ5:意思決定

着工ステージの最終フェーズは、意思決定です。ここで決定するのは「この事業で成功できるかどうか」ではなく、「着工するかどうか」という点です。

 

新規事業は、やってみなければわからない要素が多く含まれます。そのため、完璧な確実性を求めるのではなく、適切なリスクを取って着工する判断が求められます。既存事業と新規事業では、意思決定の性質が根本的に異なることを理解する必要があります。

 

既存事業はある程度土台があるため、過去の実績や数値を使ってロジックを組み上げ、理解を作れば意思決定が行われやすい領域です。一方、新規事業ではロジックだけでは前進しません。「やってみなはれ」という精神で、試す機会を得ることが重要なのです。

意思決定を突破するための方程式

新規事業の着工において、最大の壁となるのが社内の意思決定プロセスです。これを突破するためには、GOをもらう人とGOを出す人の双方の視点が必要です。

GOをもらう人の役割

新規事業企画・推進チームは、マネジメントから「やってみなはれ」という言葉を引き出さなければなりません。そのためには、事業の魅力を伝えるだけでなく、確証と確信を作ることが重要です。

 

確証とは、データやエビデンスに基づいた客観的な裏付けです。市場規模、顧客ニーズの検証結果、競合分析など、ロジカルな要素を整理します。一方、確信とは、この事業が成功するという主観的な信念です。

 

顧客課題の解像度を高め、提供価値を明確にし、「この事業はいける」と思える物語を語る必要があります。ロジックだけでは突破できない新規事業の意思決定において、この2つの要素をバランスよく組み合わせることが成功の鍵となります。

GOを出す人の役割

経営層やマネジメントは、「やってみなはれ」と言い切る覚悟が求められます。新規事業は不確実性が高いため、完璧な計画を待っていては機会を逃してしまいます。

 

適切なリスクテイクができる組織文化を作ることが、経営層の重要な役割です。また、着工後も継続的にサポートし、必要に応じて軌道修正を支援する姿勢が必要です。

 

新規事業推進の過程では、様々な困難に直面します。社内の協力を得られない、社外のパートナーとの交渉が不調に終わる、当初想定していた仮説が間違いと分かるなど、挙げ始めればキリがありません。

 

こうした状況でも、経営層が「やってみなはれ」の精神を貫き、チームを支え続けることが、組織の着工力を高めることにつながります。

組織として着工力を高める方法

個人のスキルだけでなく、組織全体として新規事業着工力を高めるための仕組みづくりが重要です。

当事者意識を醸成する

新規事業の成功には、圧倒的な当事者意識が不可欠です。上司から言われているからやっているというスタンスではなく、自らの意思として新規事業に取り組む姿勢が求められます。

 

リクルート社が新規事業開発において組織的な高いケイパビリティを持つ要因の一つは、新入社員の頃より「圧倒的な当事者意識」を求め、浸透させる環境を作ることにあります。「Will:やりたいこと」、「Can:できること」、「Must:なすべきこと」により内省し、常に自分の意思と与えられた仕事を結び付けることで、当事者意識が染みついていきます。

 

当事者意識を持っているリーダーは、社内で協力を得られない状況になっても、柔軟に対話を進め、ステークホルダーを巻き込んでいきます。正解がない中で、常に当事者としての意思決定を行い、行動の結果をもとに、さらに行動やプランを見直すという小さなイテレーションを行うことができるのです。

やり抜く力を育てる

新規事業の着工力を高めるためには、やり抜く力、すなわちGRITが重要です。GRITは「情熱」と「粘り強さ」という要素から構成されます。情熱とは、新規事業に対する強い思いや熱意です。粘り強さとは、計画通りに進まない取り組みを途中で投げ出さず、様々な工夫をもって成果に変えていく力です。

 

新規事業開発のプロセスは、突破口を見つけるだけでなく、その後事業を拡大させるといった成長段階に応じて、様々な課題に対応しながら事業の形態を変えていくことが必要です。変化する環境に応じて、粘り強く対応していくことが、最終的な成功につながります。

 

仮説検証サイクルに入らない、ネガティブな反応に心を折られるといった課題を乗り越えるためには、やり抜く力を組織として育成する仕組みが必要です。

意思決定プロセスの簡易化

意思決定のわずかな遅れが重大な機会損失につながる現代において、意思決定プロセスを簡易化することは極めて重要です。即時性が求められる事象や日常的な運営に関する内容は現場に任せて、戦略的な意思決定は経営陣が行うという体制が理想的です。

 

また、想定されるケースに対するマニュアルを整備しておけば、よりスムーズに現場で意思決定を下せるようになります。複数部門の協力が不可欠な新規事業において、共通KPIや定例会議などで連携強化を図ることも有効です。

 

目標やスケジュールの共有不足、部門ごとの優先順位の違いを解消し、効率的に意思決定できる体制を整えることが、着工力向上につながります。

まとめ

新規事業着工力を高めるためには、着工ステージの5つのフェーズ(方針設定、事業アイデアの探索・幅出し、ショートリスト化、事業化詳細検討、意思決定)を適切に進めることが重要です。新規事業の成功数は、適切に始める新規事業数と成功確率の掛け算で決まります。

 

日本企業が新規事業で苦戦する理由は、能力の問題ではなく着工数が減っていることにあるため、より多くの打席に立つことが成功への近道です。意思決定を突破するためには、GOをもらう人とGOを出す人の双方が重要であり、確証と確信をバランスよく組み合わせることが求められます。

 

組織として着工力を高めるには、当事者意識の醸成、やり抜く力の育成、意思決定プロセスの簡易化が不可欠です。「やってみなはれ」の文化を組織に根付かせ、若い世代が引き継いでいくことができれば、日本企業の新規事業の未来は明るくなるでしょう。

 

着工ステージでの定石と留意点を押さえ、組織全体で新規事業着工力を高めることで、成功する新規事業の数を増やすことができます。

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