創業融資で運転資金を確保する方法と必要額の計算ガイド

創業時に必要な資金は、設備資金だけではなく、事業開始後の運転資金も極めて重要です。多くの起業家が設備投資に注力し、運転資金の準備を軽視してしまい、事業開始直後に資金不足に陥る事例が少なくありません。運転資金は、給与、家賃、仕入れ、光熱費など、事業運営に継続的に必要な費用をまかなうための資金です。

本記事では、創業融資で運転資金を確保する方法、必要な運転資金の計算方法、運転資金不足を防ぐための戦略などを詳しく解説します。適切な運転資金の確保により、事業を安定的に成長させることができるでしょう。

この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也

大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。

中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士

創業融資における運転資金の重要性

創業融資には、大きく分けて設備資金と運転資金の2つの用途があります。設備資金は、店舗や事務所の内装、機械や什器の購入など、事業開始に必要な一時的な投資です。一方、運転資金は、事業開始後の給与、家賃、仕入れ、光熱費など、継続的に必要な経営費用です。多くの起業家は、設備資金に目が行きやすく、運転資金の重要性を認識していないことがあります。

 

しかし、いかに優れた設備があっても、運転資金がなければ事業の継続が不可能です。特に事業開始初期段階では、売上が計画通りに上がらず、キャッシュフロー赤字に陥ることが多いため、十分な運転資金の準備が事業存続の鍵になります。

運転資金が不足する場合の影響

運転資金が不足すると、事業運営に様々な支障が生じます。給与が支払えず、従業員が離職してしまう。仕入れ代金が支払えず、サプライヤーとの関係が悪化する。光熱費が支払えず、営業を継続できなくなる。

 

このように、運転資金不足は直接的に事業の存続を脅かします。さらに、銀行からの追加融資を受けようとしても、既に赤字経営に陥っている企業に対しては融資が難しくなります。つまり、最初から十分な運転資金を確保していれば防げたはずの困難が、事業の失敗につながってしまうのです。

売上が計画通りにならない場合への対応

事業開始初期段階では、売上が予測を下回ることが多いです。想定していた顧客が獲得できず、営業が予定より遅れることもあります。

 

このような状況でも、給与や家賃などの固定費は毎月発生し続けます。十分な運転資金がなければ、この赤字期間に乗り切ることができず、事業が頓挫してしまいます。適切な運転資金の準備は、事業が軌道に乗るまでの「つなぎ」として機能するのです。

運転資金の構成要素と計算方法

運転資金の必要額を正確に計算するためには、構成要素を理解することが重要です。

固定費の把握と計算

運転資金の大部分を占めるのが固定費です。固定費には、従業員の給与、賃貸事務所や店舗の家賃、保険料、水道光熱費など、売上の大小に関わらず毎月発生する費用が含まれます。

 

これらの固定費を月ごとに計算し、事業開始から損益分岐点に達するまでの期間、毎月発生する固定費の合計を、必要な運転資金として計算することが基本的な考え方です。例えば、月間固定費が200万円で、事業開始から損益分岐点達成まで6ヶ月かかると想定される場合、運転資金として最低でも1,200万円が必要になります。

変動費と仕入れ資金

変動費は、売上に応じて変動する費用で、商品の仕入れ代金が最も重要な要素です。商品を仕入れてから、それを販売して現金を回収するまでに、一定の期間が必要です。

 

この期間は「売掛金回転期間」と呼ばれ、この期間の仕入れ資金を準備しておく必要があります。例えば、月間売上が500万円で、原価率が50%の場合、月間仕入れ代金は250万円です。仕入れから販売まで2ヶ月かかる場合、500万円の仕入れ資金が必要になります。

初期投資以外の準備金

事業開始直後は、予想外の出費が生じることが多いです。設備の修理費、急きょ必要になった追加の備品、マーケティング費用など、初期計画に含まれていなかった費用が発生します。

 

これらの不測の事態に対応するため、運転資金にはある程度の余裕を持たせることが推奨されます。一般的には、月間固定費の3ヶ月分から6ヶ月分を緊急資金として準備することが望ましいとされています。

キャッシュフロー計算書の作成

運転資金の必要額を正確に計算するためには、事業開始から少なくとも12ヶ月間のキャッシュフロー計算書を作成することが有効です。キャッシュフロー計算書は、毎月の売上と支出を記載し、月ごとの現金の増減を把握するためのツールです。

 

この計算書から、どの時期に運転資金が最も必要になるのか、どの時期にキャッシュが逼迫するのかが明確になります。融資申し込みの際に、このキャッシュフロー計算書を提出することで、運転資金の必要性と適切性が融資機関に理解されやすくなります。

創業融資での運転資金融資の申し込み

運転資金を創業融資で調達する場合、設備資金とは異なる申し込み方法が必要になります。

運転資金融資の特徴と条件

創業融資で運転資金を調達する場合、設備資金融資と異なる条件が適用されることがあります。設備資金は、具体的な資産(機械、不動産など)を担保にすることが可能であるのに対し、運転資金は有形資産を持たない融資であるため、より慎重な審査が行われます。

 

運転資金融資では、事業の利益性が高く評価されるため、事業計画書の収支予測がより詳細に検討されます。また、返済期間も設備資金より短く設定されることが一般的です。設備資金は10年以上の返済期間が可能であるのに対し、運転資金は3年から5年程度の返済期間に限定されることが多いです。

日本政策金融公庫での運転資金融資

日本政策金融公庫は、創業融資の一環として運転資金融資を提供しています。新規開業ローンの融資対象は、設備資金と運転資金の両方を含んでいます。

 

運転資金融資の金利は、設備資金融資と同程度に設定されていることが一般的です。ただし、融資限度額については、設備資金と運転資金の合計で制限されることが多いため、どちらにいくらを配分するかの判断が重要になります。

民間銀行での運転資金融資

民間銀行も創業融資として運転資金融資を提供していますが、融資条件はより厳しい傾向があります。金利が日本政策金融公庫より高いことに加え、担保や保証人が求められることが多いです。

 

ただし、融資限度額が大きい場合があり、大規模な事業立ち上げを検討している場合は、民間銀行からの運転資金融資も選択肢になります。

信用保証協会の利用

創業融資で民間銀行から運転資金融資を受ける場合、信用保証協会の信用補保を利用することで、無担保での融資が可能になることが多いです。信用保証協会の補保により、融資機関のリスクが軽減され、融資が通りやすくなります。信用保証協会に対しては、保証料を支払う必要があります。

運転資金融資の申し込みに必要な書類

運転資金融資の申し込みには、設備資金融資と異なる書類が必要になる場合があります。

詳細なキャッシュフロー計画書

運転資金融資の申し込みには、事業開始から少なくとも12ヶ月間、できれば24ヶ月間のキャッシュフロー計画書の提出が求められます。月ごとの売上見込み、支出予定、月末の現金残高などが詳細に記載されている必要があります。このキャッシュフロー計画書から、いつの時期に現金が逼迫するのか、最大でいくらの運転資金が必要かが明確になります。

仕入れ先や販売先の契約書

運転資金融資の申し込みに際して、実際の仕入れ先や販売先との契約書を提出することで、事業計画の現実性が証明されます。例えば、商品の仕入れ契約書、店舗の賃借契約書、顧客との受注契約書など、具体的な取引を示す書類があると、融資機関の信頼が高まります。

売掛金の回収期間に関する資料

売上に対して売掛金がどの程度の期間で回収されるかは、運転資金の必要額に大きな影響を与えます。顧客との支払い条件、業界標準の回収期間などに関する資料を提出することで、キャッシュフロー計画の根拠が明確になります。

事業所の賃貸契約書

月額家賃が大きな固定費になる場合、事業所の賃貸契約書を提出することで、家賃の実額が確認されます。架空の家賃を計画に含めるのではなく、実際の契約に基づいた家賃を計画に反映させることが重要です。

運転資金の適正規模の判断

運転資金の融資申し込み額を決定する際には、適正規模の判断が重要です。

過度な融資申し込みの回避

運転資金融資の申し込み額は、できるだけ多い方が有利だと考えて、過度な額を申し込む起業家がいます。しかし、融資機関は、事業計画の根拠に基づいた必要額のみを融資する方針を取っています。過度な運転資金申し込みは、融資機関から計画の信ぴょう性を疑われ、融資全体が不承認になるリスクにもなります。正確な計算に基づいた適正な申し込み額を提示することが、融資承認につながります。

不足資金への対応

運転資金の初期申し込み額では不十分だと判断される場合、追加融資の申し込みを検討することが選択肢になります。ただし、事業開始後に追加融資を申し込むには、既存事業の良好な経営実績が必要です。最初から十分な運転資金を確保しておく方が、融資申し込みが容易です。

季節性のある事業への対応

季節性のある事業では、季節によって運転資金の必要額が大きく変わります。例えば、観光関連事業であれば、繁忙期と閑散期で売上が大きく異なります。季節性を考慮したキャッシュフロー計画を作成し、最も運転資金が必要な時期に対応できる融資額を申し込むことが重要です。

運転資金融資申し込み時の注意点

運転資金融資を成功させるための注意点があります。

事業計画の現実性

運転資金融資の申し込みでは、事業計画の売上予測がより詳しく検討されます。市場調査に基づいた現実的な売上見込み、業界標準に基づいた原価率や経費率、実現可能な営業戦略など、すべての計画要素が現実的であることが求められます。楽観的な予測は、融資機関から指摘を受け、融資額の減額につながる可能性があります。

キャッシュフロー計画の詳細性

キャッシュフロー計画書の詳細さが、運転資金融資の審査結果に大きく影響します。月ごと、さらに必要に応じて週ごとの現金流を記載し、どの時期にどの程度の現金が必要かを明確に示すことが重要です。詳細なキャッシュフロー計画は、事業への理解の深さを示し、融資機関の信頼を高めます。

固定費の把握の正確性

月間固定費の計算に誤りがあると、運転資金の必要額の計算全体に誤りが生じます。給与、家賃、保険料など、すべての固定費項目について、実際の額を確認し、過小評価することなく計画に反映させることが重要です。

売掛金と在庫の管理計画

商品を販売してから現金を回収するまでの期間、および在庫として保有する商品の金額が、運転資金の必要額を大きく左右します。売掛金管理と在庫管理の適切な計画を示すことで、運転資金の必要性が融資機関に理解されやすくなります。

運転資金融資実行後の管理

融資を受けた後の適切な管理が、事業成功につながります。

融資金の適切な使用

融資を受けた運転資金は、事業計画書に記載した用途に限定して使用することが重要です。個人的な支出や事業計画外の用途への転用は、融資機関との信頼を損ない、今後の追加融資が難しくなります。融資金の使用状況を記録し、融資機関から問い合わせがあった場合に説明できるようにしておくことが望ましいです。

定期的なキャッシュフロー管理

事業開始後も、毎月のキャッシュフロー実績をまとめ、計画との乖離を分析することが重要です。計画通りに進んでいない場合は、その原因を特定し、改善策を講じることで、事業を軌道に乗せることができます。融資機関に対して、定期的に経営状況を報告することで、良好な関係を維持できます。

返済計画の実行

融資を受けた運転資金ローンの返済は、事業から生じる利益で行う必要があります。返済期日を厳守し、返済遅延を避けることが、信用情報の維持と今後の融資獲得に重要です。返済が困難になった場合は、早期に融資機関に相談し、返済条件の変更を申し出ることが望ましいです。

運転資金不足を防ぐための戦略

事業開始後の運転資金不足を防ぐため、複数の戦略を検討することが有効です。

売上回収の加速化

売掛金の回収期間を短縮することで、必要な運転資金を減らすことができます。例えば、顧客への請求をより早く行う、回収条件を厳しくする、前払い制度を導入するなど、キャッシュフローの改善につながる施策を検討することが重要です。

仕入れコストの最適化

仕入れ先と支払い条件を交渉し、支払い期間を延長することで、必要な運転資金を減らすことができます。複数の仕入れ先を比較し、より有利な条件を提供する仕入れ先を選択することも戦略として有効です。

固定費の抑制

家賃や通信費など、固定費を可能な限り抑制することで、必要な運転資金を減らすことができます。ただし、事業の品質や顧客サービスを損なわない範囲での抑制が重要です。

追加融資の準備

初期融資の運転資金で対応できなくなる可能性に備えて、追加融資の申し込み準備を進めておくことが有効です。事業が良好な実績を上げれば、追加融資の申し込みが通りやすくなります。

まとめ

創業融資における運転資金の確保は、事業開始直後の安定的な経営と事業成功の鍵を握ります。月間固定費と損益分岐点到達までの期間から、必要な運転資金の基本的な規模を計算し、さらに仕入れ資金や緊急資金を加算することで、適切な運転資金を把握することができます。

 

詳細なキャッシュフロー計画書と実績に基づいた事業計画により、融資機関に対して運転資金の必要性を説得力を持って説明することが重要です。融資を受けた後は、計画と実績の乖離を分析し、問題が生じた場合には早期に対応することで、事業を軌道に乗せることができます。適切な運転資金の確保と管理により、創業企業としての最初の困難な時期を乗り越え、事業の成長へとつなげることができるでしょう。

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