パティスリー開業に必要な資金の目安と失敗しない計画の立て方

美味しいケーキや焼き菓子を提供するパティスリーを開業したいと思ったとき、最初に直面するのが「どれくらい資金が必要なのか」「どのように調達するのか」という課題です。

パティスリーの開業は、店舗の内装や設備投資に加え、オーブンや冷蔵庫などの高額な機材が必要になるため、想像以上に初期投資がかかります。さらに、開業直後は売上が安定しにくいため、運転資金の確保も欠かせません。

本記事では「パティスリー 開業」というキーワードを中心に、必要な資金の目安や資金調達方法、失敗しない計画の立て方を解説します。

この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也

大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は資金調達の支援実績300件以上、事業計画書の策定支援実績500件以上など中小企業支援に特化。中小企業にとってメリットの大きい経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用も支援。

中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
応用情報処理技術者、Linux Professional、ITIL Foundation etc

目次

第1章:なぜ今パティスリー開業が注目されているのか

パティスリーは単なる「ケーキ屋さん」ではなく、地域の暮らしに彩りを与える存在です。誕生日や記念日などの特別な日に欠かせない商品を提供できるため、消費者のニーズが安定している業態として注目を集めています。

 

さらに、近年はSNSの普及により「映えるスイーツ」が拡散されやすく、小規模でもブランドを築きやすい環境が整いました。これにより、個人のパティシエが独立し、自分の世界観を表現するパティスリーを立ち上げるケースが増えています。

 

また、健康志向の高まりや地元食材の活用ブームも追い風となり、「オーガニック」「グルテンフリー」「地産地消」といったコンセプトを打ち出すパティスリーが支持を得ています。

 

このように、市場の追い風がある今こそ、独自性を打ち出したパティスリー開業の好機といえるのです。

第2章:パティスリー開業に必要な資金の全体像

パティスリーを開業するために必要な資金は、1,000万〜2,000万円前後が一般的な目安です。ただしこれはあくまで平均値であり、店舗の立地・規模・ブランド戦略によって大きく変動します。

2-1. 都市型パティスリーの資金イメージ

例えば、駅近の商業エリアに20坪規模の店舗を出店する場合、家賃は月30万〜50万円程度。内装費用もデザイン性を重視するため800万〜1,200万円に達します。さらに、冷蔵・冷凍設備を含む厨房機材を一式揃えると700万〜1,000万円程度。開業後の運転資金を半年分(500万円前後)確保すると、合計で2,500万円近い投資になることもあります。

2-2. 郊外型・小規模パティスリーの資金イメージ

一方、地方都市や住宅街の路面店などで15坪程度の小規模店舗を開業する場合は、物件取得費や内装費を抑えやすくなります。居抜き物件を活用すれば内装コストは400万〜600万円程度、厨房機材を中古で揃えれば300万〜500万円程度に収まることもあります。運転資金も300万〜400万円程度で済むため、総額1,200万〜1,500万円前後で開業が可能です。

2-3. 運転資金の重要性

忘れてはならないのが、開業後にかかる運転資金です。パティスリーは原材料の調達が安定して必要となり、バター・小麦粉・砂糖・生クリーム・チョコレートなどは季節によって価格変動もあります。また、オープン直後は集客のために広告や販促に追加投資が必要になるため、半年〜1年分の固定費を手元に置いておかないと資金ショートするリスクが高まります。

第3章:製菓機材・店舗内装など主要コストの内訳

パティスリー開業では、製菓機材と店舗づくりが資金計画の中心です。ここでは主な費用項目をさらに具体的に見ていきます。

3-1. 製菓機材費の詳細

  • オーブン(コンベクションオーブンやデッキオーブン):100万〜300万円

  • 冷蔵庫・冷凍庫(原材料保管やケーキの保存用):50万〜200万円

  • ミキサー(生地やクリームの仕込みに必須):30万〜80万円

  • ショーケース(商品を陳列するための冷蔵ショーケース):100万〜300万円

  • 小型機材・調理器具(泡立て器・ホイッパー・モルドなど):50万〜100万円

 

新品で揃えると500万〜800万円程度かかりますが、中古を上手に活用すれば300万〜500万円程度に収めることも可能です。ただし、中古機材は保証が短かったり、修理費用が想定以上にかかるリスクがあるため、新品と中古をバランス良く組み合わせる戦略が現実的です。

3-2. 内装・外装工事費の詳細

パティスリーは「美味しさ」だけでなく「見せ方」も重要です。ショーケースを中心とした導線設計、照明による演出、外装のブランド表現などに費用がかかります。

 

  • 基本的な内装工事:400万〜600万円

  • デザイン性を重視した工事:800万〜1,200万円

  • 外装・看板・ファサード:50万〜150万円

 

小規模パティスリーで居抜きを活用する場合は数百万円単位で削減できますが、「ブランドイメージをどう見せたいか」によって予算配分は大きく変わります。

3-3. 物件取得費

  • 都市部:家賃の6〜12か月分 → 200万〜500万円

  • 郊外・住宅地:100万〜200万円程度

 

保証金・敷金は返金されることもありますが、初期費用として大きな負担になるため、見逃せないコストです。

3-4. 広告宣伝費

SNSや地域紙、フライヤー、Webサイト制作などに50万〜100万円程度。特にInstagramやGoogleマップはパティスリーと相性が良いため、写真映えする商品や店内デザインを広告戦略に組み込むと集客効果が高まります。

3-5. 運転資金

  • 都市型:月固定費100万〜150万円 → 半年で600万〜900万円

  • 郊外型:月固定費60万〜80万円 → 半年で360万〜480万円

 

特に人件費と仕入コストが重く、原材料価格の変動リスクに備える意味でも余裕を持たせることが求められます。

 

パティスリー開業の資金計画は、都市型なら2,000万〜2,500万円規模、郊外型なら1,200万〜1,500万円規模が現実的なラインです。費用の内訳を把握し、どの部分に投資を厚くするか、どこでコストを抑えるかを明確にすることで、資金の無駄を防ぎ安定した経営を実現できます。

第4章:開業を成功させるための資金調達の考え方

パティスリー開業には多額の資金が必要ですが、自己資金だけでまかなうのは現実的ではありません。そこで重要になるのが、融資・補助金・自己資金・クラウドファンディングを組み合わせる戦略です。

4-1. 銀行融資の活用

もっとも利用されるのが 日本政策金融公庫の「新創業融資制度」 です。無担保・無保証で借入でき、最大3,000万円まで利用可能です。

また、地元の信用金庫や地方銀行の創業ローンも、地域密着の強みを活かして前向きに検討してくれるケースがあります。

4-2. 補助金・助成金の活用

代表的な補助金は以下の通りです。

 

  • 小規模事業者持続化補助金:店舗改装・広告宣伝に最大200万円

  • ものづくり補助金/省力化補助金:最新オーブンやセルフレジなど効率化投資に最大1,250万円

  • 雇用関連助成金:スタッフ採用時に適用できる場合あり

 

ただし補助金は採択率があり、入金まで時間がかかるため、補助金だけに頼らない計画が必要です。

4-3. 自己資金の重要性

金融機関の信頼を得るためには、全体資金の2〜3割を自己資金で準備することが望ましいです。たとえば2,000万円の開業資金なら、400〜600万円を自己資金で用意しておきましょう。

4-4. クラウドファンディングの活用

近年注目されているのが クラウドファンディング です。資金調達と同時に、開業前から顧客を獲得できるメリットがあります。

 

  • 購入型クラウドファンディング(CAMPFIRE、Makuakeなど)

    開業前にケーキや焼き菓子の「先行予約販売」を行い、資金を集める方法です。支援者はリターンとして商品を受け取れるため、応援されやすい仕組みです。

 

  • メリット

    • 資金調達と同時に「開業前からのファンづくり」ができる

    • SNSと連動させることで、地域や全国に知名度を広げられる

    • 銀行融資や補助金に比べて審査が緩やか

 

  • 注意点

    リターン設定が甘いと採算が合わず、かえって赤字になるリスクもあります。また、支援が集まらない場合は資金計画に穴が空くため、融資や自己資金と組み合わせることが大切です。

 

パティスリー開業を成功させるには、自己資金・融資・補助金・クラウドファンディングを組み合わせた柔軟な資金調達が不可欠です。特にクラウドファンディングは、資金調達だけでなく顧客づくりやブランド発信の強力な手段となります。

4-5. 複数手段を組み合わせる重要性

パティスリーは機材投資比率が高い業態です。そのため、資金調達は複数の手段を組み合わせるのが必須です。

 

  • 自己資金:事業の信頼性を高める

  • 融資:メインの資金源

  • 補助金:返済不要で成長投資を後押し

  • クラウドファンディング:ファンづくりと広報を兼ねた新しい手段

 

たとえば必要資金が2,000万円なら、

 

  • 自己資金:500万円

  • 融資:1,00万円

  • 補助金:300万円

  • クラウドファンディング:100万円

 

という組み合わせも可能です。

第5章:数字に強い経営者になるための収支シミュレーションの重要性

資金調達に成功しても、開業後の収支管理が甘ければ、資金ショートに陥ってしまいます。特にパティスリーは、原材料の価格変動や季節要因で売上が上下しやすい業態のため、現実的な収支シミュレーションを事前に立てておくことが生死を分けるポイントになります。

5-1. 売上予測の立て方

売上予測は「客数 × 客単価 × 営業日数」で算出します。

 

モデルケース(都市型パティスリー20坪)

  • 平日:来店客数 30人 × 客単価 1,200円 = 36,000円

  • 土日祝:来店客数 80人 × 客単価 1,200円 = 96,000円

  • 営業日数:26日

→ 月商:約200万円前後

 

モデルケース(郊外型パティスリー15坪)

  • 平日:来店客数 20人 × 客単価 1,000円 = 20,000円

  • 土日祝:来店客数 50人 × 客単価 1,000円 = 50,000円

  • 営業日数:25日

→ 月商:約120万円前後

 

ここで重要なのは、シーズン要因を必ず織り込むことです。

 

  • クリスマスやバレンタインなど繁忙期は売上が1.5倍〜2倍

  • 夏場はチョコレート菓子や生クリーム系が落ち込み、売上が7割程度

 

単純な平均ではなく、「繁忙期」「閑散期」の変動を含めて年間計画を立てる必要があります。

5-2. 原価率のシミュレーション

パティスリーは材料費が高い業態です。特にバターや小麦粉、生クリーム、チョコレートなどは国際相場の影響を受けやすく、仕入価格が大きく変動します。

 

  • 原価率目標:25〜30%

  • 例)月商200万円の場合 → 材料費 50万〜60万円が理想

 

ここで注意すべきは、クラウドファンディングなどで先行予約を受けた場合、販売価格に確実に原材料費を反映させることです。リターン価格が実際の製造コストを下回れば、支援が集まるほど赤字になりかねません。

5-3. 人件費・家賃・光熱費の比率管理

収支シミュレーションでは「売上に占めるコストの比率」をしっかり把握する必要があります。

 

  • 人件費比率:売上の30%以内

  • 家賃比率:売上の10%以内

  • 光熱費:売上の5%前後(オーブンや冷蔵庫稼働で高めになりやすい)

 

例えば、月商200万円の店舗で人件費が80万円、家賃が25万円であれば、すでに売上の52.5%を固定費で消費している計算です。この時点で利益確保が難しくなり、原価率や広告費に余裕を持たせられなくなります。

5-4. 損益分岐点の算出

経営者にとって最も大切なのは「どれくらい売上を上げれば黒字になるか」を把握することです。

 

損益分岐点の計算式

固定費 ÷(1 − 変動費率) = 損益分岐点売上高

 

例)

  • 固定費:月100万円(人件費・家賃・光熱費など)

  • 変動費率(原価率):30%

→ 損益分岐点 = 100万円 ÷ (1−0.3) = 約143万円

 

つまり、月商143万円を超えなければ赤字になるということです。

この数字を把握していれば、**「月商150万円を下回ったら早急に広告を強化する」**といった判断ができるようになります。

5-5. 複数シナリオでの計画立案

現実は計画どおりには進みません。そのため、必ず複数のシナリオを準備しておくべきです。

 

  • 楽観シナリオ:月商200万円 → 年間黒字大幅確保

  • 標準シナリオ:月商150万円 → 損益分岐点付近で推移

  • 悲観シナリオ:月商120万円 → 赤字、半年で運転資金が尽きる可能性

 

クラウドファンディングを活用した場合は、初月の売上が一時的に跳ね上がりますが、それを「通常売上」と勘違いしないことが重要です。むしろ、クラファン終了後の集客をどう維持するかをシナリオに含めておく必要があります。

5-6. キャッシュフローの予測

利益が出ていても、現金が不足すれば倒産します。特に補助金は後払いが基本で、クラウドファンディングもリターン提供にコストが先行するため、キャッシュフロー表を月単位で作成しておくことが重要です。

 

  • 仕入れや人件費の支払いタイミング

  • 融資返済日の設定

  • 補助金入金までの立て替え資金

 

これらを可視化しておけば、開業後に「資金はあるはずなのに現金が足りない」という事態を防げます。

第6章:まとめ|パティスリー開業を支える専門家の力

パティスリー開業は、多くの人に夢と喜びを届けられる魅力的な挑戦です。しかし、その一方で1,000万〜2,000万円規模の資金調達が必要となり、製菓機材・内装工事・物件取得・広告宣伝・運転資金など、多岐にわたる準備が求められます。

 

さらに、開業直後は売上が安定せず、資金繰りが不安定になることも少なくありません。融資や補助金の申請は複雑で、クラウドファンディングを取り入れる場合にはリターン設計や広報戦略まで検討する必要があります。

 

つまり、成功するためには「資金調達」と「経営シミュレーション」の両輪をバランスよく整えることが不可欠なのです。

 

一方、独力での開業準備は、どうしても抜け漏れや誤算が発生しがちです。

 

  • 融資は「返済可能性」を数字で説明できなければ通りにくい

  • 補助金は申請要件が毎年変わり、採択率も一定ではない

  • クラウドファンディングは集客やマーケティング力が成功を左右する

 

これらをクリアするには、経験豊富な専門家の支援が有効です。

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