住宅宿泊事業の改装費用は補助対象?持続化補助金における按分方法を徹底解説

近年、インバウンド需要の回復や国内観光需要の高まりを背景に、住宅宿泊事業、いわゆる「民泊」を営む事業者が増加しています。運営にあたっては、宿泊者の安全性や快適性を確保するために、住宅の一部または全体を改装するケースが多く見られます。その際、資金面で大きな助けとなるのが「小規模事業者持続化補助金」です。

ただし注意が必要なのは、改装にかかった費用のすべてが補助対象になるわけではないという点です。住宅兼用で事業を行う場合、事業で使用する部分の面積に応じて「按分(あんぶん)」計算を行い、補助対象額を算出する必要があります。また、共用部分の扱い方や、申請に必要な書類の提出方法を誤ると、せっかくの補助金が認められない可能性もあります。

この記事では、補助金の公式ルールを踏まえながら、住宅宿泊事業における改装費用の按分方法について、基礎から具体的な計算例、実務上の注意点まで徹底的に解説します。

この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也

大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。

中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
応用情報処理技術者、Linux Professional、ITIL Foundation etc 

目次

1. 住宅宿泊事業と改装費用の課題

住宅宿泊事業、いわゆる民泊は、観光客の多様化やインバウンド需要の高まりに応える新しいビジネスモデルとして注目を集めています。しかし、住宅をそのまま宿泊施設として利用できるケースは少なく、多くの場合、内装・防音・防火・水回りといった大規模な改装が必要になります。

 

例えば、キッチンのリフォーム、宿泊者用の浴室の増設、玄関のオートロック化、消防法を満たすためのスプリンクラー設置など、投資額が数百万円規模に達するケースも珍しくありません。特に都市部や観光地では、競合との差別化を図るために内装デザインや家具・家電の更新にもコストがかかります。

 

こうした改装費用の負担を軽減するのに役立つのが「小規模事業者持続化補助金」です。補助率は原則2/3、補助上限は通常枠で50万円から最大250万円となり、事業拡大を目指す小規模事業者にとって大きな支援となります。ただし、住宅全体を改装しても生活部分は対象外となるため、事業用に使用する部分を明確に分けることが重要です。

2. 補助対象経費を判断する基本ルール

補助金の対象となる経費は、「事業に直接関わる部分」に限定されます。住宅宿泊事業の場合、宿泊者が実際に利用するスペースや事業運営に不可欠な設備が対象です。

 

  • 対象になる部分

    宿泊用の客室、受付カウンター、清掃用スペース、防災設備など。これらは民泊事業を成り立たせるために必要不可欠であるため、改装費用の全額が対象となります。

  • 対象外となる部分

    オーナーや家族が日常生活を送る居住専用部分。寝室、リビング、プライベート用のキッチンなどは、事業とは直接関係がないため補助金の対象には含まれません。

  • 共用部分

    廊下、玄関、浴室、階段などは事業者と居住者双方が利用します。この場合、全額対象や全額対象外とするのではなく、面積を折半して1/2だけ事業用として認めるのが基本的な考え方です。

 

このルールを守ることで、補助金の審査においても公平性と透明性を確保することができます。

3. なぜ面積按分が必要なのか

補助金は「事業のための投資」を支援する仕組みであるため、生活空間にかかる改装費用をそのまま対象に含めることはできません。住宅兼事業の物件では、生活と事業の空間が混在するため、事業に利用する割合を客観的に示す必要があります。

 

もし面積按分をせずに全額を対象経費として申請した場合、生活部分の改装費用にも補助金が充てられてしまい、制度の趣旨から外れてしまいます。その結果、審査で不備となったり、採択後に返還を求められるリスクが生じます。

 

したがって、「どの面積を事業に使用し、どの面積が居住専用か」 を明確に線引きし、その割合に応じて補助対象額を算出することが求められるのです。

4. 共用部分の扱いと注意点

住宅宿泊事業では、最も判断が難しいのが「共用部分」の扱いです。

 

玄関や廊下、浴室、キッチンなどは事業利用と生活利用が重なるため、全額を対象とするのも、完全に対象外とするのも不公平です。そのため、原則として 共用部分は面積を折半(1/2を事業用として計上) します。

 

ただし、共用部分の中でも「宿泊者が主に使用する」と判断される設備については、事業用として計上できるケースもあります。例えば、宿泊者専用のシャワールームを設けてオーナーは使用しない場合は、全額を対象とできる可能性があります。逆に「生活用途が明らかに主」と判断される場合は、補助対象として認められないこともあるため、慎重な判断が必要です。

5. 補助対象経費の計算式と具体的なシミュレーション

補助対象額は次の式で算出します。

 
補助対象経費 = 改装総額 × (事業用面積 + 共用面積 ÷ 2) ÷ 全体面積

 

ケーススタディ

  • 改装費用総額:3,000,000円

  • 住宅部分(居住専用):140㎡

  • 事業部分:120㎡

  • 共用部分:40㎡

 

計算の流れ:

(120㎡ + 40㎡ ÷ 2) ÷ (140㎡ + 120㎡ + 40㎡)
= 140㎡ ÷ 300㎡
= 46.7%

 

したがって、

3,000,000円 × 46.7% = 1,400,000円

 

このケースでは、総改装費3,000,000円のうち1,400,000円が補助対象経費として認められます。補助金は原則2/3が支給されるため、実際に受け取れる補助金額は約933,000円となります。

6. 申請に必要な書類と準備の流れ

申請時には、改装の対象部分や面積割合を明確に示すための資料を揃える必要があります。主な書類は以下の通りです。

 

  • 住宅宿泊事業法第3条に基づく届出書(電子申請の場合はシステム出力)

  • 図面(事業部分・住宅部分・共用部分が明確に記載されているもの)

  • 見積書・請求書(改装費用の根拠資料)

  • 固定資産税関連資料(図面がない場合に役所から取得可能)

 

特に図面の有無は審査に大きく影響します。申請前に必ず入手しておき、改装部分が事業用であることを説明できる体制を整えましょう。

7. よくある誤解と申請リスク

住宅宿泊事業の補助金申請では、次のような誤解やミスが頻発します。

 

  • 共用部分を全額対象と計上 → 不採択や返還のリスク

  • 図面を省略 → 面積按分の根拠が不明確となり、申請不備扱い

  • 生活部分を含めて申請 → 不正受給とみなされ、補助金返還や将来の申請制限の対象となる

 

これらのリスクを避けるためには、書類を正しく準備し、根拠を客観的に示すことが欠かせません。

8. まとめ:正しく按分して補助金を最大限活用する

住宅宿泊事業の改装に補助金を活用する際は、

 

  • 事業部分と住宅部分を区分する

  • 共用部分は折半する

  • 計算式に基づき補助対象額を明確にする

  • 書類と根拠資料を十分に準備する

 

これらを徹底することで、不採択や返還リスクを避けつつ、補助金を最大限に活用できます。改装費用の負担を軽減し、安心して民泊運営をスタートさせるためには、制度のルールに沿った正確な申請が何より重要です。

無料相談・お問い合わせ

住宅宿泊事業における補助金申請は、按分方法や書類準備など複雑な点が多くあります。当社は認定経営革新等支援機関として、多数の補助金支援実績を有しています。

面積按分の方法や申請の流れに不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

無料相談する

ProdXマガジン