創業1年目での追加融資と資金繰り改善の実践的完全ガイド

創業1年目は、事業の最も困難な時期です。売上が計画を下回ることが多く、予想外の支出が発生し、資金繰りが逼迫することが少なくありません。初期融資では足りなくなり、追加融資を必要とする起業家も多いです。しかし、創業1年目での追加融資は、黒字企業からの融資より審査が厳しくなります。

本記事では、創業1年目の資金繰りの実態、追加融資を受けるための条件、融資申し込みの方法、資金繰り改善の戦略など、創業1年目を乗り切るための完全なガイドを詳しく解説します。

この記事の監修

中小企業診断士 関野 靖也

大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。

中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士

創業1年目の資金繰り環境の厳しさ

創業1年目は、ほとんどの起業家にとって最も厳しい時期です。初期融資で得た資金も、想定より早く底をつき、資金繰りの危機に直面することが多いです。売上が計画通りに伸びない、経営経験の不足から予想外の支出が生じる、顧客開拓に予想より多くの時間がかかるなど、複数の要因が重なることが一般的です。統計によれば、創業3年以内に廃業する企業の主な理由が資金繰り悪化であることが知られており、創業1年目の資金管理がいかに重要かを示しています。

創業初期段階での売上の特性

創業直後の売上は、計画通りに伸びないことがほとんどです。顧客認知度がゼロから始まるため、営業開始から売上が出始めるまでに、予想より長い期間がかかることが一般的です。営業活動が実を結ぶまでに3ヶ月から6ヶ月かかることも珍しくありません。

 

また、初期段階で獲得した顧客も、信頼構築のプロセスを経ており、リピート率が思ったより低いこともあります。初期融資では、これらの課題に対応できるだけの充分な運転資金を確保していないケースが多く、結果として資金繰りが逼迫するのです。

固定費と変動費の圧力

毎月発生する固定費(給与、家賃、保険料など)と、売上に応じた変動費(仕入れ代金、販売関連経費など)が、資金繰りを圧迫します。特に、売上が計画を下回る場合でも、固定費は毎月発生し続けるため、赤字が加速します。創業1年目は、この固定費と売上のギャップが最も大きい時期であり、初期融資の運転資金では対応しきれないことが多いです。

予想外の支出の発生

事業を運営する過程で、事前に計画していなかった支出が発生することが多いです。設備の故障による修理費、顧客開拓のための追加マーケティング費、法的対応に必要な費用など、不測の事態に対応するための資金が必要です。初期段階では、これらの突発的な支出に対応する余裕が、資金計画に含まれていないことが多いです。

創業1年目での追加融資の必要性と判断

資金繰りが困難になった場合、追加融資の必要性を判断することが重要です。

追加融資が必要な兆候

キャッシュフロー赤字が続く、売上の成長が計画より大幅に遅れている、固定費をカバーする利益が出ていない、といった兆候が見られた場合、追加融資を検討する必要があります。ただし、単に赤字であるという理由だけでなく、その赤字が一時的なものであるか、構造的な問題であるかを判断することが重要です。初期段階の赤字が事業開始に伴う一時的なものであり、今後の成長が見込まれる場合、追加融資の正当性があります。

追加融資の判断基準

追加融資を申し込む前に、現在の資金不足が本当に融資で解決できるのかを検討することが重要です。根本的な経営改善(営業効率の向上、固定費の削減、販売価格の見直しなど)で対応可能な部分がないか、を先に検討すべきです。融資は、経営改善を補完する手段であり、経営改善の代替手段ではありません。

融資なしでの乗り切り可能性の検討

既存の資金を効率的に活用することで、資金繰り危機を乗り切ることが可能か、を検討します。例えば、売掛金の早期回収、在庫の効率化、支払い条件の交渉など、キャッシュフロー改善の施策を実行することで、融資の必要額を減らすことが可能です。最小限の追加融資で乗り切ることができれば、返済負担も軽減されます。

創業1年目での追加融資を受けるための条件

追加融資を受けるためには、複数の条件を満たす必要があります。

初期融資の使途と成果の説明

初期融資で得た資金がどのように使用され、どのような成果を上げたかの説明が求められます。融資が計画通りに使用されたか、その結果として事業にどのような進展があったか、を明確に説明することが重要です。初期融資が適切に活用されたことが示されれば、追加融資についても融資機関の信頼が高まります。

実績に基づいた現在の経営状況の説明

創業1年目であっても、初期段階の経営実績がある場合、その実績を詳しく説明することが重要です。実際の売上、発生した経費、現在のキャッシュフロー状況などを、数字で示すことで、融資機関は現在の状況を正確に把握することができます。経営実績がない場合でも、顧客獲得の進捗状況、営業パイプラインの状況など、今後の成長見込みを説明することが有効です。

追加融資の用途の明確性

追加融資で得た資金をどのような目的で使用するのかを、極めて明確に説明する必要があります。運転資金として使用する場合、具体的にどのような経費に充てるのか、その経費はいつまで発生し続けるのか、を説明します。単に「資金不足を補填するため」という曖昧な説明では、融資機関の信頼を得ることができません。

改善計画と成長見込みの提示

現在の困難な状況が、いつまで続き、その後どのように改善されるのかについて、説得力のある計画を示す必要があります。売上がいつまでに損益分岐点に達するのか、その達成のために何をするのか、といった具体的な改善計画が求められます。改善計画に説得力があり、実現可能性が高いと判断されれば、追加融資の可能性が高まります。

創業1年目の追加融資の申し込み方法

追加融資を申し込む際の手続きと準備について解説します。

初期融資を受けた金融機関への相談

初期融資を受けた金融機関に、追加融資の相談をすることが最初のステップです。既に初期融資を受けているため、申し込み者と事業について一定の理解を持った金融機関に相談することで、スムーズに進む可能性が高いです。初期融資の返済実績が良好であれば、金融機関の信頼が高まり、追加融資が通りやすくなります。

必要な提出書類の準備

追加融資申し込みには、初期融資申し込み時とは異なる書類が必要になります。創業後の実績を示す書類として、初期段階の損益計算書、売上台帳、営業経費の記録などが求められます。銀行の通帳コピーにより、実際の現金の流れを示すことも効果的です。これまでの経営状況を数字で示す書類があることで、融資判断の根拠がより明確になります。

修正版事業計画書の作成

初期融資申し込み時の事業計画書に、実際の経営実績を反映させた修正版を作成します。初期段階の売上実績、経費の実績、現在の経営状況などを記載し、その上で今後の見通しを示します。当初の計画と実績の乖離について、その理由を説明し、今後の改善方法を示すことが重要です。融資機関に対して、現在の状況を正確に理解し、問題解決に向けて着実に取り組んでいることを示す必要があります。

追加融資の返済計画の明示

追加融資をいつまでにいくら返済するのか、その返済が事業から生じる利益でカバーできるのか、を明確に示す必要があります。返済期間が初期融資より短くなる傾向があるため、毎月の返済額が増加する可能性があります。その返済額が、予想される利益で対応可能か、を検証し、返済計画の現実性を示すことが重要です。

創業1年目での追加融資の融資先選択

追加融資を申し込む融資先の選択も重要です。

初期融資機関との関係継続

初期融資を受けた金融機関から追加融資を受けることの利点は、申し込み者と事業について既に理解があることです。初期融資の返済実績が良好であれば、追加融資が通りやすくなる傾向があります。また、同じ金融機関から継続的に融資を受けることで、金融機関との関係が深まり、将来の経営支援も期待できます。

複数融資機関への並行相談

初期融資機関からの追加融資が難しい場合を考慮して、複数の融資機関に相談することも検討する価値があります。日本政策金融公庫、民間銀行、信用金庫など、複数の機関に相談することで、最適な融資条件を探すことができます。ただし、短期間に多数の融資機関に申し込むと、融資機関に悪い印象を与える可能性があるため、計画的に進めることが重要です。

自治体融資の活用

一部の自治体では、創業1年以内の企業向けの追加融資制度を提供しています。自治体の融資窓口に相談することで、特別な支援が受けられる可能性があります。自治体融資は利息補給制度を備えていることが多く、実質的な金利負担が軽くなる場合があります。

創業1年目での資金繰り改善戦略

追加融資だけに頼るのではなく、経営改善による資金繰り改善も並行して進めることが重要です。

売上増加への営業力強化

資金繰り改善の根本的な解決は、売上の増加にあります。顧客開拓の加速、既存顧客からのリピート率向上、営業チーム体制の強化など、売上増加に向けた施策を講じます。短期的には効果が限定的かもしれませんが、中期的には確実な改善につながります。

固定費の削減

毎月発生する固定費を削減することで、損益分岐点を下げ、黒字化を加速させることができます。家賃の交渉、不要な契約の解約、効率化による人員削減など、固定費削減の方法は複数あります。ただし、事業品質や顧客サービスを損なわない範囲での削減が重要です。

売掛金回収の加速化

顧客への請求から現金回収までの期間を短縮することで、キャッシュフローを改善できます。請求タイミングの前倒し、回収条件の厳格化、前払い制度の導入など、売掛金回収を加速させる施策を検討します。

在庫管理の効率化

不動産や商品の在庫として塩漬けになっている資産を最小化することで、キャッシュフローが改善されます。在庫回転率の向上、不良在庫の処分、受託販売制度の活用など、在庫管理の効率化により、運転資金の必要額を減らすことができます。

支払い条件の交渉

仕入れ先や外注先との支払い条件を交渉し、支払い期間を延長することで、現金支出を遅延させることができます。長期的な取引関係を基礎として、より有利な支払い条件を交渉することが可能です。

創業1年目での追加融資申し込み時の注意点

失敗を避けるための注意点があります。

現状把握の甘さの回避

資金繰りが困難になった場合、問題の根本原因を正確に把握することが重要です。単に資金が足りないという表面的な問題だけでなく、その背後にある経営課題(営業が進まない、経費が多すぎる、など)を認識し、その課題に対する対策を準備することが必須です。融資機関は、経営課題に対する対策がない状態での追加融資を、リスク回避のため拒否することが多いです。

虚偽情報の記載回避

創業初期の経営実績について、正確な数字を報告することが重要です。実績を良く見せるために数字を改ざんすることは、絶対に避けるべきです。発覚した場合、追加融資が不承認になるだけでなく、初期融資についても問題が生じる可能性があります。

返済計画の現実性

追加融資の返済計画が、実現可能であることが求められます。過度に楽観的な利益予測に基づいた返済計画は、融資機関から信頼されません。保守的で達成可能な利益見込みに基づいた返済計画を示すことが重要です。

複数融資機関への無計画な申し込み回避

短期間に多数の融資機関に申し込むと、融資機関に悪い印象を与え、融資が通りにくくなります。計画的に、段階的に申し込みを進めることが重要です。

創業1年目での融資以外の資金調達手段

融資以外の資金調達方法も検討する価値があります。

増資による資金調達

個人投資家や、家族・親族からの追加出資により、資金を調達することが可能です。返済の必要がない出資金は、事業にとって極めて有利です。ただし、経営の支配権に影響が生じる可能性があるため、慎重に検討する必要があります。

ファクタリングの活用

売掛金を売却することで、現金を早期に獲得する方法があります。ファクタリングは、売掛金を現金化することで、キャッシュフローの改善に有効です。ただし、手数料が発生するため、利益率に影響を与えることに注意が必要です。

クレジットラインの活用

短期的な資金繰り改善には、クレジットカードや短期ローンの活用も一つの方法です。ただし、金利が高いため、長期的な依存は避けるべきです。

創業1年目を乗り切るための総合的戦略

融資、経営改善、その他の資金調達を組み合わせた総合的な戦略が重要です。

段階的な改善目標の設定

創業1年目を3ヶ月単位で区切り、各段階での改善目標を設定します。第1四半期は顧客開拓の基盤構築、第2四半期は営業成果の出現、第3四半期は黒字化への道筋確立、第4四半期は継続的黒字化の確認、といった段階的な目標設定により、進捗が管理しやすくなります。

月次経営報告と改善サイクル

毎月の経営状況を数字で把握し、計画とのギャップを分析します。乖離の原因を特定し、改善策を講じるというサイクルを繰り返すことで、確実に経営が改善されます。融資機関にも定期的に報告することで、金融機関との関係が深まり、今後の支援が期待できます。

まとめ

創業1年目は、ほとんどの起業家にとって最も困難な時期です。初期融資では足りなくなり、追加融資を必要とする場合があります。追加融資を受けるためには、初期段階の経営実績を示し、現在の状況と課題を正確に説明し、改善計画と成長見込みを説得力を持って示すことが重要です。

 

初期融資を受けた金融機関への相談が最初のステップであり、良好な返済実績があれば、追加融資が通りやすくなります。同時に、経営改善による資金繰り改善を並行して進めることで、追加融資への依存を最小化できます。融資、経営改善、その他の資金調達を組み合わせた総合的な戦略により、創業1年目の困難を乗り切り、事業を軌道に乗せることができるでしょう。

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