日本政策金融公庫とは?創業者を支援する公的機関

起業を決意したものの、資金調達の方法に悩んでいませんか。
日本政策金融公庫は、政府が100%出資する政策金融機関で、創業期の事業者を積極的に支援しています。
本記事では、日本政策金融公庫の創業融資制度について、最新の情報を交えながら網羅的に解説します。
この記事の監修
中小企業診断士 関野 靖也
大学卒業後、大手IT企業にて、システムエンジニアとして勤務。株式会社ウブントゥ創業後は補助金申請支援実績300件以上、経営力向上計画や事業継続力向上計画など様々な公的支援施策の活用支援。
中小企業庁 認定経営革新等支援機関
中小企業庁 情報処理支援機関
中小企業庁 M&A支援機関
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会
経済産業大臣登録 中小企業診断士
日本政策金融公庫は、民間金融機関が対応しにくい創業期の資金需要に応える政府系金融機関です。営業実績がなく、民間銀行からの融資が困難な創業者でも、事業計画の実現可能性が評価されれば融資を受けることができます。
日本政策金融公庫の役割と特徴
日本政策金融公庫は「国の政策の下、民間金融機関の補完を旨としつつ、社会のニーズに対応した政策金融を機動的に実施する」ことを基本理念としています。
全国に152の支店を展開し、地域を問わず創業者をサポートする体制を整えています。特に創業支援に力を入れており、2024年4月からは創業融資の枠が大幅に拡充されました。
政府の「スタートアップ育成5か年計画」に基づき、起業しやすい環境整備が進められています。民間金融機関とは異なり、短期的な収益性だけでなく、事業の社会的意義や将来性も評価対象となるため、革新的な事業アイデアを持つ創業者にとって有力な資金調達先となります。
民間金融機関との違い
民間金融機関の創業融資では、担保や保証人を求められることが一般的ですが、日本政策金融公庫では無担保・無保証人での融資が原則となっています。
また審査基準も異なり、民間銀行が決算書や営業実績を重視するのに対し、日本政策金融公庫は事業計画書の内容や経営者の経験、自己資金の準備状況を中心に評価します。
金利面でも優遇されており、2025年時点で年2.30〜3.35%程度と低金利で借り入れが可能です。返済期間も設備資金で最長20年、運転資金で最長10年と長期に設定できるため、月々の返済負担を抑えながら事業に集中できる環境が整います。
なぜ創業者に選ばれるのか
日本政策金融公庫が創業者に選ばれる最大の理由は、実績がない段階でも融資を受けられる点です。
創業融資の審査通過率は約50%と民間金融機関より高く、適切な準備をすれば融資獲得の可能性は十分にあります。また創業相談窓口では、融資申込前の事業計画のブラッシュアップから融資後のフォローまで、きめ細かい支援を受けることができます。
創業ホットライン(0120-154-505)では、専任スタッフが平日9:00〜19:00まで相談に応じており、初めての起業でも安心して利用できる体制が整っています。
2024年4月から拡充された創業融資制度
2024年4月に新創業融資制度が廃止され、新規開業資金の内容が大幅にリニューアルされました。この変更により、創業者にとってより利用しやすい制度へと進化しています。
新創業融資制度廃止後の変化
2024年3月まで存在していた新創業融資制度は、新規開業資金などの各種融資制度に統合されました。
これにより制度がシンプル化され、利用者にとって分かりやすくなっています。
新規開業資金では、新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方が、原則として無担保・無保証人で融資を受けられます。従来の新創業融資制度と同様の要件で利用でき、むしろ一部の要件が緩和されたことで、より多くの創業者が融資を活用できるようになりました。
特に自己資金要件については柔軟な対応がなされており、自己資金が創業資金総額の10分の1に満たない場合でも、事業計画の内容次第で融資が検討されるケースが増えています。
融資限度額の拡充(7,200万円へ)
最も大きな変更点は、融資限度額の引き上げです。
従来は3,000万円が上限でしたが、2024年4月からは7,200万円(うち運転資金4,800万円)まで拡充されました。この変更により、設備投資が必要な業種や、事業規模が大きい創業においても、十分な資金を調達できるようになりました。
ただし融資限度額が増えたからといって、誰でも7,200万円を借りられるわけではありません。
事業計画の妥当性、自己資金の額、経営者の経験などを総合的に判断した上で、融資額が決定されます。現実的には、初回の融資では1,000万円〜2,000万円程度が平均的な融資額となっています。
利率引下げ制度の概要
創業期の事業者を支援するため、基準利率から0.65%の利率引下げが適用されます。
さらに雇用拡大を図る場合は、0.9%の引下げとなります。女性、35歳未満の若者、55歳以上のシニア起業家の場合は、特別利率が適用され、さらに低い金利で借り入れが可能です。
また創業後に一定の目標(営業利益率や雇用増加)を達成した場合、利率を0.2%引き下げる「創業後目的達成型金利」も導入されています。これにより事業の成長に応じた金利負担の軽減が実現され、創業者のモチベーション向上にもつながっています。
日本政策金融公庫の創業融資制度の種類
日本政策金融公庫では、創業者の状況や事業内容に応じた複数の融資制度を用意しています。自分に最適な制度を選ぶことで、より有利な条件での資金調達が可能になります。
新規開業資金
新規開業資金は、最も基本的な創業融資制度です。
新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象となります。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が7年以内です。
無担保・無保証人で利用でき、基準利率から0.65%の引下げが適用されます。業種や事業規模を問わず、幅広い創業者が利用できる汎用性の高い制度となっています。
申込に際しては、創業計画書の提出が必須となり、事業内容や資金計画を明確に示す必要があります。
女性、若者/シニア起業家支援資金
女性、35歳未満の若者、55歳以上のシニアによる起業を支援する制度です。
融資条件は新規開業資金と同じですが、特別利率が適用されるため、より低い金利で借り入れが可能です。この制度は、多様な人材による起業を促進し、経済の活性化を図ることを目的としています。
女性起業家の増加や、若年層・シニア層の経験や知識を活かした起業を後押しする重要な制度といえます。年齢や性別の要件を満たしていれば、特別な手続きなく優遇金利が適用されるため、該当する方は積極的に活用すべきです。
再挑戦支援資金(再チャレンジ支援融資)
過去に事業に失敗した経験がある方の再起業を支援する制度です。
廃業歴があっても、その経験を活かして新たな事業に挑戦する場合、融資を受けることができます。対象となるのは、廃業時の負債を返済している、または返済計画が明確になっている方です。
融資限度額や返済期間は新規開業資金と同様で、特別利率が適用されます。一度の失敗で起業を諦めることなく、再チャレンジできる環境を整えることは、イノベーション創出の観点からも重要です。
日本政策金融公庫は、こうした再起業を積極的に支援しています。
中小企業経営力強化資金
認定支援機関(税理士、中小企業診断士など)のサポートを受けて事業計画を策定する場合に利用できる制度です。
専門家の関与により、より精度の高い事業計画を作成でき、融資審査においても有利に働きます。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、特別利率が適用されます。
事業計画の策定から融資後のフォローまで、認定支援機関の継続的なサポートを受けられるため、創業後の経営安定にもつながります。初めての起業で不安がある方や、事業計画の作成に自信がない方に特におすすめの制度です。
創業融資の申込から融資実行までの流れ
日本政策金融公庫の創業融資を受けるには、適切な手順で申込を進めることが重要です。各ステップでのポイントを理解し、スムーズな融資獲得を目指しましょう。
事前相談と支店の選定
融資申込の前に、まず事前相談を行うことをおすすめします。
各支店の融資相談係に直接出向くか、創業ホットライン(0120-154-505)に電話相談することで、制度の詳細や必要書類を確認できます。原則として、創業する場所(事業を行う場所)を管轄する支店に申し込むことになります。
管轄支店は日本政策金融公庫のウェブサイトで確認できますが、不明な場合は最寄りの支店に電話で問い合わせるのが確実です。
事前相談の段階で、自分の事業が融資対象業種であるか、必要な自己資金の目安などを確認しておくと、申込準備がスムーズに進みます。また面談が行われる支店の雰囲気を事前に知っておくことで、本番の緊張を和らげる効果もあります。
必要書類の準備
創業融資の申込には、以下の書類が必要となります。
借入申込書、創業計画書、設備資金の見積書(該当する場合)、運転免許証やパスポートなどの本人確認書類、預金通帳のコピー(過去6ヶ月分程度)、源泉徴収票または確定申告書のコピー、不動産の登記簿謄本(担保提供する場合)などです。
特に重要なのが創業計画書です。日本政策金融公庫の所定様式がありますが、それに加えて詳細な事業計画書を添付することで、審査担当者への説得力が増します。創業の動機、経営者の略歴、取扱商品・サービス、ターゲット顧客、競合分析、販売戦略、収支計画などを具体的に記載しましょう。
書類に不備があると審査が遅れたり、印象が悪くなったりする可能性があるため、チェックリストを作成して漏れのないよう準備することが大切です。
面談対策と審査のポイント
書類審査を通過すると、支店の担当者との面談が実施されます。
面談は融資の可否を左右する重要なプロセスで、通常30分〜1時間程度行われます。想定される質問として、創業の動機、事業内容の詳細、競合との差別化ポイント、売上予測の根拠、資金の使い道、返済計画などがあります。
これらの質問に対して、創業計画書の内容を完全に理解した上で、自分の言葉で説明できるよう準備しておく必要があります。特に売上予測については、「なぜその数字が達成できるのか」を具体的な根拠を示しながら説明することが重要です。
服装は清潔感のあるビジネスカジュアル程度で問題ありませんが、誠実で信頼できる経営者という印象を与えることを心がけましょう。質問には正直に答え、分からないことは素直に「分かりません」と言うことも大切です。
融資実行までの期間
申込から融資実行までの期間は、通常2週間〜1ヶ月程度です。
ただし書類に不備がある場合や、審査内容が複雑な場合は、それ以上の時間がかかることもあります。特に確定申告時期(2月〜3月)や決算期は混雑するため、余裕を持ったスケジュールで申込を進めることをおすすめします。
融資が承認されると融資決定通知が届き、契約手続きを経て指定の口座に資金が振り込まれます。融資実行後は、資金使途通りに資金を使用し、定期的に経営状況を報告する義務があります。
審査通過率を高めるための重要ポイント
日本政策金融公庫の創業融資審査通過率は約50%といわれていますが、適切な準備により成功率を大幅に向上させることができます。審査で重視されるポイントを理解し、万全の準備で臨みましょう。
自己資金の準備が最重要
自己資金は、審査において最も重視される要素の一つです。
原則として創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要とされていますが、実際には3分の1程度あることが望ましいとされています。自己資金として認められるのは、通帳などで形成過程が確認できる預貯金です。タンス預金や直前に借りた資金、見せ金などは自己資金として認められません。
少なくとも創業の半年前から計画的に資金を貯めている実績を示すことが重要です。
通帳には不自然な入出金がないよう注意し、公共料金やクレジットカードの支払い遅延がないようにしましょう。自己資金が多いほど「事業への本気度」「計画性」「返済能力」が高いと評価され、融資額も大きくなる傾向があります。
事業計画書の質を高める
事業計画書は、審査担当者が事業の実現可能性を判断する最重要書類です。
優れた事業計画書には、具体性、実現可能性、論理性が求められます。売上予測については、楽観的すぎる数字ではなく、根拠のある現実的な計画を立てることが信頼につながります。「初月から満席」「初年度から黒字」といった楽観的な計画ではなく、事業が軌道に乗るまでの期間を考慮した堅実な計画を示しましょう。
競合分析では、競合他社の強みと弱みを分析し、自社の差別化ポイントを明確に示すことが重要です。また取引先候補や仕入先の具体名を挙げることで、事業の実現可能性を高めることができます。
事業計画書の作成に不安がある場合は、認定支援機関(税理士、中小企業診断士など)のサポートを受けることも有効な選択肢です。
経営者の経験と信用情報
創業する事業に関連する業界での勤務経験は、大きなプラス要因となります。
同業種での6年以上の勤務経験や、管理職としての経験があれば、審査で高く評価されます。全く未経験の業種で起業する場合は、なぜその事業を選んだのか、どのようにノウハウを獲得したのかを説明できるようにしましょう。
また経営者個人の信用情報も厳しくチェックされます。
過去にクレジットカードやローンの返済遅延、債務整理、自己破産などの金融事故がある場合、審査に悪影響を及ぼします。携帯電話料金の滞納も信用情報に記録されるため、日常的な支払いにも注意が必要です。
融資を検討する段階で、CICやJICCなどの信用情報機関で自身の信用情報を確認しておくことをおすすめします。
返済計画の現実性
「借りた資金を確実に返済できるか」は、審査の核心部分です。事業の収支計画と返済スケジュールを整合的に組み立て、返済原資の裏付けを明確に示す必要があります。
月々の返済額が事業収支を圧迫しないよう、返済期間を適切に設定することが重要です。また返済開始時期についても、事業が軌道に乗るまでの期間を考慮して、据置期間を設定することができます。
据置期間とは、元金の返済を猶予し、利息のみを支払う期間のことで、創業直後の資金繰りを楽にする効果があります。
専門家のサポート活用も検討しよう
創業融資の成功率を高めるために、専門家のサポートを活用することも有効な戦略です。適切なサポートを受けることで、審査通過率を大幅に向上させることができます。
認定支援機関の役割
認定支援機関とは、中小企業の経営支援に関する専門的知識や実務経験を持つ機関として、国から認定を受けた税理士、公認会計士、中小企業診断士などの専門家です。
認定支援機関のサポートを受けて事業計画を策定すると、中小企業経営力強化資金という有利な融資制度を利用できます。
また専門家の関与により、事業計画の質が向上し、審査担当者からの信頼も得やすくなります。認定支援機関は、事業計画書の作成支援、融資申込書類のチェック、面談対策、融資後のフォローまで、トータルでサポートしてくれます。
費用は発生しますが、融資獲得の確実性が高まることを考えれば、投資対効果は高いといえるでしょう。
創業支援セミナーの活用
日本政策金融公庫では、定期的に創業支援セミナーや個別相談会を開催しています。
これらのイベントに参加することで、融資制度の最新情報を得られるだけでなく、融資担当者と直接コミュニケーションを取る機会も得られます。
セミナーでは、創業計画書の書き方や、審査のポイント、先輩起業家の体験談などを学ぶことができます。また個別相談会では、自分の事業計画について具体的なアドバイスを受けることができます。
こうした機会を通じて、融資担当者に自分の事業を知ってもらうことは、審査においてプラスに働く可能性があります。日本政策金融公庫のウェブサイトでセミナー情報を確認し、積極的に参加することをおすすめします。
まとめ
日本政策金融公庫の創業融資は、実績のない創業期でも資金調達できる貴重な制度です。
2024年4月からの制度拡充により、融資限度額が7,200万円に引き上げられ、より多くの創業者が十分な資金を調達できる環境が整いました。融資獲得のためには、十分な自己資金の準備、質の高い事業計画書の作成、面談対策の徹底が不可欠です。
また専門家のサポートを活用することで、審査通過率を大幅に高めることができます。
本記事で解説した内容を参考に、しっかりと準備を進めて、あなたの起業を成功に導く資金調達を実現してください。

現状の準備で創業融資を受けられるか、不安はありませんか?
金融機関の融資審査では、以下のような基準が重視されます。
・開業予定の業種に関する経験や実績
・融資希望額に対してどの程度の自己資金を準備しているか
・信用情報や返済に関する過去の履歴
ProdX Crowd は、創業期の方に向けて 創業計画書の作成支援から審査対応の準備までを一貫してサポートしています。創業融資に不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。
